研究課題/領域番号 |
19K23127
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
Mori Albertus.Thomas 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (70849835)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 華人 / インドネシア / プロテスタント / ミッション / 中華性 |
研究実績の概要 |
本研究は従来の華人研究において絶対的な基準として主張された「中華性(Chineseness)」とは別に、「華人キリスト者」たちの日常的宗教実践を通して新たな「華人像」を描き出すことを目指す。具体的にはジャカルタ首都特別区におけるインドネシア華人キリスト教会連合会(PGTI)、メソジスト派のインドネシア第二年会(GMI Wilayah II)の第三教区、首都圏最大の単立華人教会「国語堂(GKY)」を対象として、各自の海外交流や関連事業、及び相互間の比較について調査する。
本年度は主に文献調査を中心に、特に教会情報誌『文橋』を通してPGTIの成立の経緯を明らかにした。台湾、アメリカ、香港の華人キリスト者を中心とする「世界華人福音運動」は、1987年からインドネシアに進出を試みたが、「華人」という特徴の強調が政府の基本方針に抵触したため、ジャカルタで月に1回情報交換を目的とする合同祈祷会のみを開始させた。しかし、「世界華人福音運動」が中華性への過剰な拘りによって1990年代半ばから多くの華人教会の支援を失った一方、ジャカルタの華人教会の一部の実業家たちは、1998年の5月暴動の善後処置のために設立した支援団体をもとにPGTIの事務局の前身を設立し、「世界華人福音運動」からインドネシア支部として認めてもらった。だがそれらの実業家たちは中国大陸の教会との関係性を重視する傾向が強いことは、中国の政府公認教会の機関誌『天風』には大量の訪問交流活動の記録が確認された。
そのため、PGTIに強烈な親中的傾向があることが分かった。その大規模な組織、華人キリスト者全体を代表する団体という政府のお墨付きにより、インドネシアの華人キリスト者たちの現状は、特定のカテゴリーへの帰属を勝手に設定されているように考えられよう。これが引き続き個々の華人キリスト者の意識と行動を捉える際の重要な前提になっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2019年10月18日、マレーシアのミッション系出版社の好意により、教会の伝道関連情報誌『文橋』のバックナンバー(1985年~2000年)を寄贈してもらった。スハルト政権時代の華人文化禁止政策によってインドネシア国内には歴史を反映できる一次文献がないため、この情報誌に記載されたインドネシアの華人教会関連の情報を抽出・整理している。1月中旬までの時点では、すでに前述したように文献調査を行い、フィールドワークを実施するための前提を把握した。
しかし、新型コロナウイルスの拡散により、とりわけインドネシア政府及び日本政府の渡航制限により、1月下旬から予定した2か月間のジャカルタと香港の現地調査を実行できなかった。本研究にとって研究データの収集は主にフィールドワークを通して行わなければならないため、3月末まで電話やSNSなどを通して現地の研究協力者及び予定した調査対象者たちとコンタクトを取るよう試みているが、それだけでは人類学的研究にとって必要な信頼関係が十分に構築しがたい。また調査対象者には電子機器類の使用などに疎い高齢者が多くいるため、通信手段のみではフィールドワーク事態を代替できない。そのため、現在本研究は予定より大幅に遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
本報告書を記入する6月の時点では、日本もインドネシアもマレーシアも出入国の制限を解除する見込みが一切ない。本研究のメイン部分はインドネシア、マレーシア、香港、台湾における現地調査であるため、渡航制限が続く限り、研究の停滞が避けられない。現在、現地調査で訪問すべき関係者を代替できるような候補者について、台湾の中原大学宗教研究所、及びインドネシアと関係する世界中の華人教会関係者たちに打診しつつある。他方、インドネシア国内の移動制限の緩和により、非対面の通信手段でインタビュー調査を実施する可能性について研究協力者たちとも相談している。なお、来年度への執行の延長申請も検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究において主要な使途はフィールドワークの移動・滞在関連経費のため、国際渡航が制限されている現在、完全に執行できない。翌年度分と合わせて引き続き文献の購入及び渡航制限が解除された後に行うフィールドワークのために執行する。
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