昨年度までにネパールにおいて実施してきたフィールド調査で入手した資料の分析を行った。具体的には、ネパールの首都カトマンドゥ近郊の農村P村、バクタプール市、ドラカ郡B村、ラリトプール郡B村などで行ってきた一連の参与観察、インタビューの結果、フィールドで入手した文献や官公庁およびNGO等の発刊資料、新聞記事等、および撮影した写真等について分析を実施した。その結果、以下の3点が明らかになった。 ①草の根ネットワークの震災下での構築の過程とその動態:震災下の草の根ネットワークにおいては特に国外移住者らとの関係を中心としたつながりと、村の内部で国際開発事業の文脈の中で構築されてきたつながりが絡み合いながら作り上げられていた。 ②震災後の草の根ネットワークの動態:これらのつながりはコロナ禍などのイシューに応じて臨機応変に構築され、人々が危機的な状況に対応するための基盤となっていた。特にインターネットを介したつながりは、市民社会的なつながりだけでなく、個人間のつながりも強化し、人々の親密圏もまた拡張しつつあることが分かった。 ③民族・文化に基づくつながりの強調:震災からの復興過程の中で、特に家屋を巡り民族性や文化を強調する動きが出ていることが分かった。 この調査結果は、論文「コミュニティ・レジリエンスが発揮される空間―ネパール2015年地震で被災した都市近郊農村を事例として」として『環境社会学研究』29号に掲載されたほか、単著『ネパール大震災―共同性と市民性が交わる場で災害に対応する―』として取りまとめた。また、来年度に開催される国際学会(International Conference for Asian Scholars 13)に応募、採択された。
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