研究課題/領域番号 |
19K23132
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
諸 昭喜 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 助教 (80848359)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | 民俗病いの変化 / 台湾 / 韓国 / 東洋医学 / 病いの構築 / 産後風 / 月内風 |
研究実績の概要 |
本研究は、文化特有の病いと社会・文化との関係を、患者の語りに焦点を当てて分析することを主たる目的としている。研究対象は韓国の産後の女性に特有の「産後風」といわれる症状であり、本年度は、韓国の若い世代に対する調査を行い、社会の近代化と病いの変容に焦点を当てた。 1)産後ケアを大事にするようになった現在の韓国でも産後の症状を訴える患者たちは常に存在するが、その語りの内容は世代によって異なる。近代化以前の多くの女性は、栄養不足と労働に起因する慢性衰弱状態であり、さらに頻繁な出産と育児のために苦しんでいた。近代化の時期になると、家族だけでなく地域と国のため、身体的、精神的な苦痛に耐えていた。また、現代の女性はライフを構成する主な活動領域が変化したが、さらに負担になった出産と育児の責任感がこの産後の病いの語りから生き生きと表れている。症状の解析の中身には否定的記憶、人生の苦難を表現する方法として、身体の慢性的な痛みという形が文化的に許容される側面が見える。伝統医学における病いが時代とともに変容するさまを、患者自身の症状に対する解釈の変化も含めて明らかにする。 2)韓国の場合、西洋医学のパラダイムにおいて、東洋医学の疾病名は失われる傾向があり、「○○症、〇〇症候群」という症状で呼ばれる傾向が強まっている。しかし、産後の病に関しては、政府からの出産関連政策と漢方の言説形成、産後ケアサービス業拡大の影響があり、産後風の病名がまだ認められる点も有意味だった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
韓国の産後の病に関しては、博士論文の内容と2020年度の調査結果を発展させ、学術図書の執筆、編集をすすめ、韓国の韓国学中央研究院の2021年度の出版助成により、刊行を予定している。民俗病の歴史と近代化、病いのイディオムから見る妊娠と産後の体、共有されている病いの語りと時代の反映、漢方の中で構築される民間の病いというそれぞれのテーマで、伝統医学の病いがバイオメディカルなパラダイムとの競合関係の中でどのように変化するかを分析した。東洋医学に同じ起源をもつ台湾の「月内風」と産後の産後ケアに関して文献調査からも類似な仮設は提起される。しかし、新型コロナウィルスの発生のため、現地調査が行われていないので、実際の現地調査からの資料を基にする比較研究までは進んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
台湾の「風湿」、「月内風」、「月子病」に関するインターネットや文献調査を基で、今年度は現地での隔離期間も考慮した上で7月から8月まで現地調査を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地調査に向けて準備していたが、新型コロナウイルスの発生のため、台湾の見地調査を遂行できなかったので、現地調査費用の次年度使用額が生じた。今年は感染防止対策をとって、現地での調査を計画している。
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