研究課題/領域番号 |
19K23137
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
塩崎 裕子 (久志本裕子) 上智大学, 総合グローバル学部, 准教授 (70834349)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | ムスリム / 東南アジア / マレーシア / ロヒンギャ / ヘイトスピーチ / 排除 / ソーシャルメディア |
研究実績の概要 |
2020年度は予定していた出張ができなかったため、文献による調査、理論研究とインターネット上の言説の分析を実施した。計画当初には予測していなかった新しい事態として、新型コロナウイルス感染症に関連したマレーシアの非正規移民へのヘイトスピーチ、特にロヒンギャ難民に対するヘイトが2020年4月からソーシャルメディア上で顕在化したということがあった。難民条約に批准していないマレーシアでは、ロヒンギャ難民はUNHCRからIDを発行されていても非正規滞在者としてしか扱われず、就学や雇用の機会が与えられず、差別と排除の対象であったが、同時にムスリムから「同胞」としてみなされ、支援を受けることも少なくなかった。それが今回、ムスリムと見られる投稿者が激しいロヒンギャ批判を行い、「よそ者」として排除する言説がソーシャルメディア上にあふれたのである。本年度の研究ではこの事例について、主にFacebookで展開されたヘイトスピーチとそれに対抗する言説、マレーシアにおける報道と海外における報道といったいくつかの異なる立場からこの問題に関連する言説を収集するとともに、ヘイトスピーチ、差別、ソーシャルメディアの役割に関する先行研究を集め、ソーシャルメディアにおけるヘイトの言説をどのように意味づけることができるのか、理論的な検討を行った。その結果、今回のヘイトスピーチの爆発的増加は、現実の社会における差別の存在と基本的に切り離して考える必要があるということ、このような性質を持つソーシャルメディアの分析にはより方法論的な慎重さが求められることが明らかになった。2020年度11月には上智大学のシンポジウムにてこの研究成果に基づく口頭発表を行い、さらにソーシャルメディアにおける「ヘイト」をどのように研究するか、アプローチに関する先行研究の検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定していた出張ができなかったため、当初の研究計画の通りには実施することができなかった。しかし、上述のように代替の研究課題を決めて研究を進展させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
予定していた出張ができない前提で、以下の三つの方向で研究を進める。 ①ソーシャルメディアにおける言説、とくにヘイトスピーチを資料とする研究の理論、方法論についての検討 ②マレーシアの若者に焦点を絞り、ソーシャルメディアを日常の中でどのように使っているか、排除の言説にどのように関わったことがあるのかについてオンラインでインタビューを実施。 ③以上に基づく国際学会での報告(オンライン)と、投稿論文の執筆
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた出張ができなかったため、渡航費と資料収集に関わる費用を使うことができなかった。2021年度に資料の購入、オンラインでのインタビューに関わる謝礼、ソーシャルメディア分析の経費として使用する予定である。
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