研究課題/領域番号 |
19K23137
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
塩崎 裕子 (久志本裕子) 上智大学, 総合グローバル学部, 准教授 (70834349)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | イスラーム / 排他主義的言説 / 寛容 / 知識のイスラーム化 / 不均衡 / 権力関係 / オリエンタリズム / 穏健 |
研究実績の概要 |
今年度も予定していた海外調査の実施ができなかったため、排外主義的言説の背景にある欧米とムスリム社会の不均衡な権力関係、その中で形成されてきたイスラーム観、ジェンダー観、教育の在り方について研究を行った。 研究実施計画においては、排他的言説(及びその対抗言説)の形成におけるソーシャルメディアの役割を、単独で分析するのではなく、①古典的宗教書の言説、②各国のオフィシャルな言説と③ソーシャルメディアにおける説教師等の言説、の三者の関係の中で歴史的変容を踏まえて分析する、ということを予定しており、今年度の調査の実施はこの中で特に①と②に焦点を当てたものとなった。③については引き続きデータ収集を行っている。 ①の古典的宗教書の言説については、イスラーム神学の中でも古くから一般ムスリムの強い関心が寄せられてきた死生観について詳細な分析を行った。②については、各国政府の言説とその言説が生み出された時代に力を持った主張について、形を変えながら継続している欧米との不均衡な権力関係にいかに対抗するか、という点に着目して分析を進めた。1980年代のマレーシアで特に強く主張され、教育政策にも影響を及ぼした「知識のイスラーム化論」は欧米を中心とする知識の生産、流通が形成されていることを批判し、イスラームに立脚した教育、知識の生産と流通のあり方を模索する議論であったが、ナショナリズムとの関係やイスラームの中の異なる思想潮流の盛衰の中で、一部の主張が取り上げられて主流化する一方、別の一部が排除される状況が生じていた。ここに見られるナショナリズム言説との関係で一部のイスラーム言説が主流化し、別の一部が排除されるという現象は、現代の排他主義的言説を見るうえでも重要であることが再確認された。 また、これらの作業を通じて「穏健」「寛容」という用語自体を見直すべきであると考え、議論の整理を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
歴史的、思想的研究に関しては当初の予定よりも深く研究が進められているので研究自体は進展しているが、予定していた海外調査は実施できなかったため、予算執行の状況も踏まえてやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は予定していた海外調査が実行できる見込みができたので、以下の点を進めていきたい。
1)海外調査を実施し、排他主義的言説に関する人々の認識、態度、行動がSNSにおける変化とどのように関連しているのかを明らかにする。 2)SNSで表現される多様な排他主義と寛容性の言説を全体としてどのような傾向としてまとめることができるか、試案を提示する。 3)「排他主義」と「寛容」、「過激」と「穏健」というタームが東南アジアのイスラームについてどのように使用されるか、その東南アジアのムスリムおよび外部の人々による使用方法が、どのようにオリエンタリズム的な権力関係と関連しているのか、歴史的、思想的背景を踏まえて説明する方向性を見出す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルス感染症流行の影響で、予定していた渡航の予算が余ってしまったので、2022年度は海外渡航による調査及び資料収集の実施等に予算を使う予定です。
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