本研究は、中国の西双版納タイ族自治州に居住するタイ族のタイ医学を事例とし、先行研究ではあまり注目されてこなかった当地にみられる女性たちの治療実践について、医療人類学的立場から検討することを目的とするものである。 初年度から3年間(延長期間を含む)の研究成果は以下の通りである。 第一に、先行研究や文献資料の収集、整理である。中国の西双版納タイ族自治州での調査実施と関連文献の収集を行った。村落内に住むタイ族女性たちの身体ケアについての取り組みに関する聞き取り調査や参与観察を通して、女性たちの家庭内での治療実践について一次資料を入手することができた。第二に、研究で得た知見を所属学会等で報告し、論文にまとめた。具体的には、日本文化人類学会や日本現代中国学会、日中社会学会での研究報告、一治療法であるかっさの歴史的展開と特徴や当地の多元的医療体系について述べた論文の執筆を行った。さらには、中国における医療人類学の研究動向についても研究会で報告した。 以上を踏まえ、最終年度は、以下のような研究活動に従事した。 第一に、中国での現地調査が困難であったため、同系民族が居住するタイ北部の村落にて現地調査を実施した。当地におけるタイ医学や民間療法の実践の様相や新型COVID-19流行下において、村落内でいかなる対応策や対処法が用いられ、誰がそれを担っているのかについて、ジェンダーの視点から調査した。第二に、研究成果の公開である。日中社会学会の学術誌である『21世紀東アジア社会学』にて本研究テーマに関する論文が掲載された。第三に研究成果公開のための論文の執筆である。研究活動期間を通して得た知見をまとめるために、現在、学術論文や関連原稿の執筆に取り組んでいる。 男性中心主義的治療実践の中で、女性たちが果たす役割やその意味について明らかにした点において、本研究は重要な意義を持つものであると考える。
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