本研究の目的は、現代ルワンダにおいて、紛争と虐殺に関わる個別の特異な体験とその記憶が、親密な他者とのあいだに分有され、さらにそれが若い世代の者たちに継承されていく姿を民族誌的な記述を重ねるなかで検討することである。 令和4年度も、これまで実施することができなかった「大人世代の個別の記憶」「若者世代の『体験』の継承」に関わる現地調査を遂行するための渡航を待望したものの、新型コロナウィルス感染症の世界的な流行による影響を鑑みてその機会を見送った。代わりに、日本各地やアジア圏における極限状況下の記憶とその継承に関する研究を遂行している研究者や学芸員、地域の人びととともに、国内にある博物館や資料館等を訪問するなかで、情報収集と相互の問題関心についての意見交換をおこなった。そうした活動を通して、「安全と平和、共生の日常論理」に関する知見を深めた。 研究成果の公開としては、集団的暴力の社会史に関する査読付き英文学術書On the Social History of Persecutionにおいて分担執筆をおこない、刊行された。口頭発表としては、「生態人類学会」やイベリアア・アフリカ研究集会においておこなった。いずれもコロナ禍以降、初の完全対面による開催の運びとなり、非常にゆたかな活気が感じられた。前者では生態学や農学等の研究者から、後者ではアフリカやポルトガル語圏の文学や歴史学、国際関係学等さまざまな分野の研究者から多彩な意見を得る貴重な機会となった。そのほかにも、自身の属する研究グループでの口頭発表を2件、アウトリーチ活動として学生団体からの依頼による3件の講演等をおこなった。
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