本年度は、昨年度に引き続き、コロナ禍のためにドイツに渡航して調査することは不可能となった。加えて二次文献の調達に関しても支障が発生していた。 本研究の目的と方法論は、昨年度の時点で変更されており、刊行された神学者や聖職者の文献を読解することにより、当時の聖職者たちの法学的知識の程度を明らかにすることが目的となった。 リストアップされたものの中から、アントン・プラエトリウスというカルヴァン派の牧師によって著された『魔術と魔女についての基本的な報告』(1598年)を分析することになった。これがサンプルとして選ばれたのは、地域的にまた時代的に魔女迫害が多発していたドイツ西部において活動していた聖職者によって書かれたということと、研究代表者の専門とする地域に比較的近いということ、そしてカルヴァン派の牧師によって書かれ、四度も再版されたことから、今後の研究の発展性を期待してのことである。ところが、このプラエトリウスについては、現在までのところ同じプロテスタントの牧師による伝記的なプロソポグラフィーがあるのみであり、管見の限りでは先行研究が存在しない。テクストについては入手し読解を進めたが、プロソポグラフィーがコロナ禍のために入手困難となったため、これを入手したのちに成果を活字化することを試みたい。 他方で、昨年度執筆した査読付き論文は『法制史研究』第70巻に掲載された。こちらでは、ヴェストファーレンにおける魔女裁判記録から同地の学識法曹による実務と、それに対する聴罪司祭ミヒャエル・シュタッパートの批判を分析した。彼の批判は主として一般的なものにとどまっており、「不法」に対して法学的に反論していたわけではなかった。このことは、彼の法学的知識の限界を示唆している可能性がある一方で、刑事裁判において聴罪司祭と学識法曹が同じ問題に接する機会があること、そこで両者が衝突しうることを示している。
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