研究課題/領域番号 |
19K23147
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山崎 皓介 北海道大学, 法学研究科, 助教 (40844668)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 違憲判断の遡求制限 / 将来効 / 違憲判断の方法 / 違憲審査制 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、いわゆる違憲判断の遡求制限について理論的基礎づけの観点から考察を行うものである。その際、直接の素材として、幾人かの合衆国最高裁判事の将来効についての見解を分析・比較する計画を立てた。本年度においては、こうした分析・比較の第一歩、あるいは基礎固めとして、裁判官の法的思考に関する研究に力点を置いた。 当初の計画にあるとおり、いわゆる将来効という判断は、伝統的な法発見の建前に反しており、むしろ立法的性格を強くするものである。この点、将来効に限らず、およそ裁判あるいは法解釈というものが立法的性格を持ちうることを正面から認めたのが、B.カードーゾ判事である。カードーゾ判事は、将来効についても重要な提言をしており、本研究課題においても、主たる調査対象の一人となっている。以上のことを考慮して、本年度においては、カードーゾ判事の裁判観を適切に理解できるように、裁判官の法的思考に関する脈々と続く研究を追うこととした。そうした脈絡の中で改めてカードーゾ判事の見解を眺めることで、めぐりめぐって同判事の将来効に関する議論もより深く理解できるものと考えたためである。 裁判官の法的思考については、いわゆるリアリズム法学がカードーゾ判事と同時代に勃興したことがよく知られているが、ときにルール懐疑主義にまで行き着くその動向とは違い、同判事の見解は、法的推論の規制力をもっと重視しているところに特徴がある。この点、もっと後の時代において、例えば、N.マコーミック等、法的思考に関する、より体系的な議論を展開する論者とも共通する点がいくつかみられることが分かった。 こうした後の時代の研究を踏まえた上で、今一度カードーゾ判事の議論を見直し、その異同を考察したことで、同判事の法的思考に関するより深い知見が得られたことは、本研究課題にとっても、その基盤を強固にしたという意味で、重要な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、必ずしも将来効に関する合衆国最高裁の判例動向に主眼をおくものではない。それは、表面的な法理テストや実践例ではなく、その理論的基礎づけの観点から考察を行うことが、引いてはわが国における違憲判断の遡求制限についても重要な示唆が得られるものと考えているからである。 こうした研究の方向性からすれば、裁判官の法的思考あるいは裁判観のような抽象的議論の考察は、本研究課題にとってほとんど必須の作業であると言ってよい。したがって、こうした作業が進められた点は、本年度の進捗状況として一定の評価ができるものと思われる。また、本年度は、一年半ある本研究期間の三分の一が当てられており、まだ一年の期間が残されている。 もっとも、あくまで主題が将来効にある以上、なおこうした作業は準備作業にとどまる。合衆国における将来効の理論的基礎づけについて、体系的に整理するために、残された作業はまだ多いことも事実である。 以上の理由から、現在までの進捗状況については、「おおむね順調に進展している」と評価した次第である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず、当初の計画において選出した他の合衆国判事の見解に関する調査研究を進めることとしたい。その際、なるべく具体的な将来効の判断ともリンクさせながら、抽象的議論にのみ流れないよう注意しつつ、やはり理論的基礎づけを探ることを中心に考察する予定である。 本研究の最終目標は、それら判事の見解を比較検討し、将来効の理論的基礎づけについての一定の示唆を引き出すことにあるが、その研究成果をなるべく早い段階で公表することも目指す。もっとも、前研究課題の公表作業も本研究期間に同時並行的に行っており、公表順としてはそちらを優先しているので、本研究課題については研究期間内に公表を予定しているわけではない。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題は基金化されているので、必要な書籍等の購入についても、研究の進展状況にも合わせつつ柔軟に行なっていく方針をとっている。本研究期間が一年半であるところ、本年度が半年、次年度が一年となっていることも踏まえ、次年度の使用額の方がより多くなることが見込まれる。したがって、必要な書籍等については、その都度選定し、次年度に繰越することも念頭に置きながら使用した。また、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、国内・国外への旅費分の支出が浮いたため、その分も次年度使用額に計上されている。 次年度の使用計画としては、新型コロナウィルスの感染拡大状況の見通しが立っていないため、特に旅費と物品費との間の配分において、柔軟に決定していく予定である。
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