研究課題/領域番号 |
19K23152
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
川鍋 健 早稲田大学, 政治経済学術院, 講師(任期付) (90845661)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | チャールズ・ブラック / 違憲審査制 / 人民主権 / イェール学派 |
研究実績の概要 |
本年度は、チャールズ・ブラックの違憲審査制論を検討し、その日本憲法学への示唆を論じた査読論文川鍋健「新たな憲法解釈の誕生:チャールズ・L・ブラックの議論から」、一橋法学19巻2号(2020年)189頁以下を公刊した。また、本論考については、科研費基盤B「ポピュリズム憲法学と立憲主義に関する総合的研究」第9回研究会において報告した。 また、本論考とこれまで私が検討したイェール学派の人民主権論との対比を行った研究報告、川鍋健「アメリカ憲法学における人民主権論」、第21回政治と理論研究会(オンライン、2020年9月)及びその対比からの日本憲法学への示唆を論じた研究報告、川鍋健「人民主権と立憲主義:砂川判決と立ち上がる主権者人民について」、北陸公法判例研究会(金沢大学、オンラインでの参加、2021年1月)を行った。これら二つの研究報告については一つの論考としてまとめ、査読論文、川鍋健「アメリカ憲法学における人民主権論と日本憲法学への示唆」、憲法研究8号(信山社)、2021年5月公刊予定である。 また、これらの研究成果に基づき、近年アメリカにおいて人権保障の最適化を重視する議論である最適化立憲主義の著作、エイドリアン・ヴァーミュール(吉良貴之訳)『リスクの立憲主義:権力を縛るだけでなく、生かす憲法へ』の書評会にパネリストとして参加した。川鍋健「憲法学とその目的:書評、エイドリアン・ヴァーミュール(吉良貴之訳)『リスクの立憲主義』、勁草書房、2019年」、『リスクの立憲主義』オンライン合評会、2020年7月。 これらの研究業績を通じて、人民主権の主張に依拠したアメリカの違憲判断積極主義の正当性とその日本への適用可能性を明らかにすることができ、日本憲法学にとって意義を有するものとなったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
公刊論文では、本研究課題の中核にあるチャールズ・ブラックの人民主権論に依拠した違憲審査制論とその示唆について明らかにすることができた。加えて、この業績とこれまでの業績の総括について、アメリカ憲法学(科研費基盤B「ポピュリズム憲法学と立憲主義に関する総合的研究」研究会)、憲法学(北陸公法判例研究会)、法学(『リスクの立憲主義』オンライン合評会)、政治学など隣接社会科学(政治と理論研究会)から有益なコメントを得ることができた。 また、それらの機会から得た示唆も含めてまとめた論文も査読を経て公刊決定まで至ることができた。感染症の流行に伴う資料収集等の制約があり、それがなかった場合と比して必ずしも十分に研究活動を遂行できなかった面もあるが、これらのことからは本研究課題は概ね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、ブラックのような人民主権の主張に依拠した違憲審査制という理念は、アメリカでは具体的な裁判所制度としてどう構成されているか、ということについて、研究することを計画している。特に裁判官の任免制度について注目している。アメリカでは連邦と州とで異なる制度を採用しており、前者が任命制、後者が選挙制となっている。しかしその違いの一方で、両者には共通して裁判官の民主的答責性の問題意識がある。このような、アメリカにおける違憲審査制の背後にある人民主権の理念を、制度の側面からより具体的に描き出したい。また、そのことを踏まえた日米の裁判所制度、裁判官制度の比較を通じて、そこからの日本憲法学への示唆を明らかにし、論文化、学会報告を行っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
一応の研究活動を継続はできたものの、感染症の流行等により、資料収集などにつき、研究活動の遂行について十分でない面があった。本年度の研究業績はその意味でフルスペックとは必ずしも言い難い面があり、参照すべき資料の遺漏を今後論考や学会報告を通じて補う必要があると考える。次年度使用額については、そのような作業のために必要な資料の収集に当てたいと考えている。
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