当該年度において本研究課題にかかる目的は、第一年度において、「理論面」に着目して行なったフランソワ・ジェニーの法理論を「実践面」に着目して、さらに拡張するということであった。ジェニーにおける法の理論は、少なくとも20世紀初頭において科学(science)の概念を中心として、19世紀末のフランスにおける科学哲学の潮流に、土台を持つものであるということが、前年度の研究を通じて明らかにしたことであった。当該年度においては、フランスの科学哲学上の概念を土台として、形成されたジェニーの議論が、法律家による法実践と法現象としてどのように関連づくか、あるいは、どのように関連づけようとされていたか、というテーマによって研究を進展させた。 ジェニーは、科学的自由探究によって、法ないし法の適用を単なる制定法からの演繹という形式論理主義から解き放ったが、その過程で、彼の理論を注釈学派の主張を超克するものとして正当化するために、フランス科学哲学の認識論に依拠したがために、彼の法理論は、法解釈学ないしは法哲学の観点からほとんど顧みられることのない、理論偏重的なものとなった。しかしながら、同時に実定私法学者であったジェニーが、法解釈や司法裁定の場において、実践的な問題を考慮していなかったのかといえば、そうではない。 当該年度の研究は、ジェニーが著した1918年の『実定私法における科学と技術』の第三分冊における論稿を検討対象とし、ジェニーが掲げる法の実践的側面を考察した。実際に、ジェニーは法技術の例示としていくつかの条文とその注釈を挙げて、自身の理論の適用を説明している。したがって、具体的検討としては、法解釈上の論点と関係した「法の推定・擬制」の表象たるそれらの制定法上の根拠から、どのように法解釈の拡張可能性が生じうるのかについて、破毀院による判例変更の実践例と併せて検討を行なった。
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