本研究は、ドイツ親子法との比較研究に示唆を得ることにより、法的な親子関係を決するにあたり考慮すべき要素を明らかにするとともに、子の利益を法的な親子関係の創設・否認の場面でにいかに位置づけ、確保すべきかについて検討することを目的とする。 本年度は、法的な親子関係の考慮要素の一つである「血縁」に焦点を当て研究を進めた。すなわち、ドイツ親子法は、連邦憲法裁判所やヨーロッパ人権裁判所の判決を契機として、子と血縁上のつながりのある生物学上の父に、面会交流権や情報請求権を認める改正を行ってきた。こうしたドイツにおける一連の改正は、生物学上の父の親子法における地位及び権限を強化するものと評価することができる。すなわち、ドイツ親子法において、生物学上・血縁上の父子関係に一定の価値が認められ、生物学的なつながりのみを基礎とする諸権利が付与されている。 しかし、条文を子細に検討すると、必ずしも血縁のみが優先されているのではなく、「社会的家族的関係」や「子の福祉」、「子への重大な関心」等、血縁に対峙する要素が明らかとなる。そこで、法改正に至るまでの議論や改正の契機となった裁判例について調査・分析するとともに、改正後の運用について学説・判例を分析し、こうした要素の意味を明らかにした。さらに、生物学上の父の有する権利や生物学上の父の法的地位について整理・分析を行い、血縁の位置づけとその限界を明らかにすることを試みた。
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