刑法上、重い非難が向けられる故意責任の実体は、「故意の提訴機能」にあるのではなく、「法益侵害的心情」という心理的側面にある。それゆえ、故意を認めるためには、当該犯罪の保護法益を侵害していることを、行為者自身が素人なりに理解している必要がある。 この基準によれば、現代社会型犯罪では、評価的認識を要する場合がある。たとえば、みなし公務員規定を介した賄賂罪においては、賄賂収受者のみなし公務員性を基礎づける事実の認識では足りず、「みなし公務員であること」の認識まで要するというべきである。 上記理解は、理論的に正当であるのみならず、裁判員にとって簡明な故意の指針を提供しうる。
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