研究課題/領域番号 |
19K23163
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
佐竹 宏章 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (30844146)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 詐欺罪 / 背任罪 / 財産犯 / 不正受給 / 国公有財産 |
研究実績の概要 |
本研究は,わが国で近時問題になっている国公有財産(国有財産・公有財産)の不適正な処分・運用との関係で,①国家や地方公共団体の内部から国公有財産の適正な処分・運用を阻害する類型に背任罪が,②その外部から阻害する類型に詐欺罪や個別法の不正受給罪が成立するか否かについて解釈論的検討を行い,③そこで得られた課題を踏まえて,立法論的検討を行うものである。 2019年度は,主として②国家や地方公共団体の外部から国公有財産の適正な処分・運用を阻害する犯罪に関する解釈論的検討(主として,詐欺罪や個別法の不正受給罪に関する研究)を行った。具体的には,第一に,詐欺罪の「欺罔行為」や,詐欺罪と補助金等不正受給罪との関係などに関するわが国の議論状況などを整理した。第二に,詐欺罪の射程を明らかにするために,未遂の開始時点(実行の着手)に関する近時のわが国の裁判例を検討した。第三に,ドイツの詐欺罪,補助金詐欺罪,背任罪に関する近時の関連論文を収集し,検討を行った。以上の研究成果の一部については,刑事判例研究会,刑法読書会などで報告を行った。 2020年度は,これまで行ってきた②国家や地方公共団体の外部から国公有財産の適正な処分・運用を阻害する犯罪に関する解釈論的検討をまとめた論文を公表し,①国家や地方公共団体の内部から国公有財産の適正な処分・運用を阻害する犯罪に関する解釈論的検討と,これらの研究を踏まえた③立法論的研究にとりかかる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は,国家や地方公共団体の外部から国公有財産の適正な処分・運用を阻害する犯罪(主として詐欺罪や個別法の不正受給罪)に関する解釈論的検討を行った。 第一に,詐欺罪の欺罔行為や,詐欺罪と補助金等不正受給罪との関係などに関するわが国の議論状況などを整理した。 第二に,詐欺罪の射程を明らかにするために,実行の着手に関する近時のわが国の裁判例を検討した。これとの関係で,刑事判例研究会11月例会(2019年11月23日,同志社大学)で,京都地裁令和元年5月7日判決について報告を行った。本裁判例は,いわゆる「すり替え作戦」(ある者が,警察官などを装って,被害者に対して銀行口座の不正引き出しなどの被害にあっている可能性があり,キャッシュカードなどを保管する必要がある旨申し向け,被害者自身にキャッシュカードなどを個別の封筒に入れさせ,さらに封筒を閉じるために必要なのりなどを持ってくるように指示し,被害者がいない隙に,事前に用意したダミーのカードをいれた封筒とすり替えるという手口)がなされた事案で,詐欺罪を否定して,窃盗罪を認めたものである。 第三に,ドイツの詐欺罪,補助金詐欺罪,背任罪に関する近時の関連論文を収集し,検討を行った。これとの関係では,刑法読書会年末例会(2019年12月26日,立命館大学)で,ウルス・キントホイザー「詐欺罪における欺罔と真実請求権」(ZStW 103, S.398 ff.)について報告を行った。同論文は「真実を求める権利」から詐欺罪の「欺罔行為」の判断方法を提言するものであり,この報告では,わが国の詐欺罪の「欺罔行為」や補助金等不正受給罪の「不正な手段」の解釈に応用する可能性があるという分析を行った。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度前半は,これまで行ってきた国家や地方公共団体の外部から国公有財産の適正な処分・運用を阻害する犯罪に関する研究(主として詐欺罪や個別法の不正受給罪に関する研究)を公表論文としてまとめる予定である。 2020年度後半は,国家や地方公共団体の内部から国公有財産の適正な処分・運用を阻害する犯罪に関する研究(主として背任罪に関する研究)にとりかかる予定である。2020年3月4日に,ドイツのアウグスブルク大学のミヒャエル・クビツィエル教授と面会し,2020年9月からのアウグスブルク大学での研究滞在の内諾も得ているが,ドイツ国内で3月中旬から新型コロナウィルスの影響が深刻化しているため,当初の計画通り,2020年度後半に在外研究を行うか,計画を変更して国内で研究を進めるか未定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の使用額が残った理由は,一部の洋書が届くのが遅れ,適時に執行ができなかったためである。 2020年度は,当該使用額と2020年度分の助成金と合わせて,すでに注文済みの本研究に関連する洋書に使用する予定である。そのほかの2020年度の助成金は,在外研究の旅費,本研究に関連する洋書・和書の購入等に使用する予定である。
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