研究課題/領域番号 |
19K23164
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
西脇 秀一郎 愛媛大学, 法文学部, 講師 (70843556)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | 情報権(情報請求権) / 検査権(調査権) / 民法・民事法 / 社団・組合契約・法人・会社 / 意思決定 / ドイツ法 / 共益権(管理権)・自益権(財産権) / 非営利団体・協同組合 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度の研究成果を踏まえ、引き続き日独の「情報(請求)権」概念に関わる文献の収集・読解・検証を進めるとともに、日本の非営利団体の現況と課題の分析を行った。 本年度の主な研究成果として次の2点がある。 第一に、非営利団体(社団・組合)の構成員の団体運営情報へのアクセスを保障するための示唆を有しうる、ドイツ法上の「情報権」概念の内実を分析するための基礎作業として、本年度では特に、日独の民法上の組合の「検査権」を分析し、社団型団体構成員の権利保障との比較・検証を行った。具体的には、民法上の組合及び会社法上の持分会社の構成員の検査権(調査権)に関する立法経緯・判例・学説の検討を行い、特別法上の組合(LPS、LLP等)の法制度を分析した上で、ドイツ民法における同種の規律との比較検証を行った。当該検証により、検査権保障の有無・強弱が、特定の団体・契約を組合型団体・組合契約として性質決定(法性決定)するための考慮要素となり、相関性を有しうるとの知見を提示することができた。並行して「情報権」概念一般に関する文献の収集・分析を進めた。 上記研究成果は、研究会等で報告を行い理論実務両面において今後の研究展開につながる示唆を得た。これらの研究実績をもとに、上記成果を論文として公表する準備が整い、2021年に刊行を予定している。 第二に、持続的な団体運営を支える制度的基盤の実態的な検証として、土地・建物管理ないし農林業に関わる財産管理型の団体の実態分析・調査研究を進めた。また、研究成果を広く社会に公表・還元するため、当該調査研究の成果を講演・講座において積極的に発信した。具体的には、令和2年度市町村農業委員並びに農地利用最適化推進委員等研究会、愛媛県消費生活講座等での講演報告、土地家屋調査士会調停委員の就任により、実務担当者等との連携体制を構築するとともに、成果を広く発信することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、非営利団体の構成員が適正な情報の取得・共有に基づき団体の運営に参与するための基礎的な権利を「情報権」と定義づけ、当該権利保障の積極的意義を検証し、ひいては「団体的拘束力」ないしガバナンスを正当化する諸要因・条件の一端を理論的・実証的に明らかとすることを目的とする。 日独の文献収集・翻訳・読解を進め、前年度までの段階で「universitas」と「societas」概念の異同の分析、19世紀ドイツの組合・会社に関する研究を進め、成果の一部を公表した。また、団体に関する法解釈論は、実際に社会において存在する団体運営に資するものであるべきことから、本研究では、文献研究と並行して、実態面の調査研究を進めた。具体的には、地縁団体やNPO等の事例を分析し、成果の一部はすでに前年度にて邦文書籍と英文書籍にて公表することができた。当初計画では成果公表は初年度ではなく次年度以降と想定していたため、前年度経過段階では当初計画以上の進展があった。 また、本年度では、【研究実績の概要】記載の通り、日独の民法上の組合の検査権に関する文献研究等を通して、団体構成員の情報権と団体の性質決定ないし団体的拘束力との相関性の検証を進展させ、同時に、農林業に関する各種の実務担当者等との連携協力体制を構築することができた。 他方、COVID-19の影響により、本年度当初には物品調達や文献収集・分析・調査に支障が生じた。加えて、研究会・学会等の延期などにより、本年度での成果の報告機会がずれ込む事態が生じた。これに伴い、研究会報告後にブラッシュアップを経て公表することを予定していた成果公表が本年度内に困難となったため、一部の論文公表を2021年度に行う変更が生じ、研究計画を修正し期間を繰り越した。 以上を総合考慮し、計画の一部修正が必要となったものの、全体としては「おおむね順調に進展している。」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度では、COVID-19の影響により生じた研究計画・機関の一部変更を踏まえ、研究成果を公表するために次のことを予定している。 非営利団体(社団・組合)の構成員の権利保障のあり方を考えるための準備・前提作業として、本年度までの文献調査・論文執筆準備にスイス法の分析を加え、組合の業務決定・執行および財産状況に対する「検査権」に関する総括的な研究成果を論文として公表する。当該権利は、組合員が団体運営に参与するための必要不可欠の(最低限の)権利として保障されるべき性質を有しており、組合(契約)の「共同の事業性」認定の重要な考慮要素の一つであるとされており、構成員の権利保障とガバナンスの関係に関する研究成果の一部をなす。 また、外部団体・実務担当者との連携体制に関して、2020年度には、一般社団法人愛媛県農業会議、JA愛媛中央会(愛媛県農業協同組合中央会)及び愛媛県協同組合協議会、愛媛県土地家屋調査士会等との体制構築を進めることができた。具体的には、所属する愛媛大学の2021年度秋学期開講科目として、共通教育・教養科目「文系主題科目(協同組合とは何か-協同組合論)」の開講を担当し、調査研究成果の公表とともに、愛媛県協同組合協議会と連携し、協同組合の実務担当者等に基づくプログラムを実施する。また、2020年度に愛媛県土地家屋調査士会境界紛争センター調停委員に就任したことを契機に、専門家との共同の研究会・研修会の企画・実施の検討を進めている。本研究に関連する調査研究の展開に加え、広く成果を公表し、研究を発展的に展開することを予定している。 なお、当初計画では、日本の団体運営・ガバナンスの現況を検証するために、広く非営利団体の内部組織に関する調査研究を行う予定としていたが、COVID-19の影響が継続されることを想定して、必要に応じて柔軟に研究計画を対応させる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度末以降のCOVID-19の流行の継続により、2020年度においても、(緊急事態宣言の影響等もあり)研究会等が中止又は延期となり、国内外出張も所属機関及び居住地自治体の要請により全て禁止又は自粛となったため、資料収集、研究会報告、論文作成作業に当初計画では想定していなかった支障が生じた。また、勤務校では遠隔講義等への対処のためエフォートに変更が生じ、加えて県外への出張等も制限され、オンライン以外に必要な資料収集が十分にできず研究計画の見直しが必要となった。特に、独語文献の一部の購入、国内外への調査収集作業が行えず、使用額の一部を次年度に繰り越して使用することとした。 2021年度では、残額につき日独の文献の購入・調査に使用する予定であり、また論文公表に伴い必要となる機材等の物品に支出をする予定である。COVID-19の影響が継続した場合には、団体運営の実態調査のための出張に予定していた経費への支出計画を修正し、適宜、複写・論文抜刷費、物品・消耗品等への支出に振り替えて使用する。
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