令和3年度は、令和2年度までに行った調査・分析を基礎として、フランスのスポーツ法典及び労働法典上の規定について更に詳細な分析を行った。これを基に、次の2点につき、私見をまとめた。まず、(1)肖像の商業的利用を目的とする契約に及ぶべき規律について。この点は、(a)契約時に肖像の利用方法が特定されること及び(b)肖像の商業的利用から生じる収益に応じた報酬が肖像本人に支払われることが求められるべきであると考える。これらの規律は、契約一般に及ぶ規律よりも介入的であるが、肖像の商業的利用を目的とする契約に固有の規律として求められるべきである。次に、(2)上記の規律は、どのような契約について及ぶべきかという点について。日本においては、「肖像の商業的利用」と言う際にパブリシティ権(顧客吸引力を排他的に利用する権利)がイメージされる場合が多い。もっとも、上記(a)及び(b)の規律は、顧客吸引力を有する肖像を利用する契約に限らず、肖像の商品化、広告への使用等の商業的利用を行う契約について及ぶべきである。 この研究成果は、エンタテインメント業界やスポーツ業界における肖像利用に関する契約について契約正義を実現するための具体的方策の一提案としての意義を有する。また、無名人のような顧客吸引力を有さない肖像本人を当事者とする契約の受け皿を作るための学理の側からのバックアップの役割を果たすことができると考えている。これらの私見については、その骨子を、既に別欄記載の学会報告及び雑誌論文において発表している。これとは別途に、私見の詳細を述べた論説を、雑誌に公表する機会を近く得る予定である。 なお、令和元年度より予定していたフランスにおけるスポーツ分野の専門家及び実務家へのインタビュー等のための出張は本年度も実施が叶わなかったため、文献資料を元にした検討・考察として上記の私見に至った。
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