研究課題/領域番号 |
19K23166
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研究機関 | 大阪女学院大学 |
研究代表者 |
高橋 宗瑠 大阪女学院大学, 国際・英語学部, 教授 (40844600)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 国際人権法 / 共生 / イスラマフォビア / ムスリム / デンマーク |
研究実績の概要 |
2020年度に続いて2021年度の前半はコロナウィルスの国際蔓延のために予定していた現地調査やカンファレンスなどの対面での出席などの延期を余儀なくされ、インターネットを通じた実務家や研究者とのやりとりや、デンマークのメディアや文献などを使った研究に徹した。関連が深いカンファレンスでの発表(カナダ・アルベルタやアラブ首長国連邦・ドバイ、トルコ・イスタンブール)を積極的に行い、投稿論文も2本掲載された。2021年度の後半からようやく行き先によって海外渡航が可能になり、2021年12月にトルコ・イスタンブール(カンファレンス)、2022年2月にオーストリア・ウィーン(調査)に出張した。
昨今は「平行社会」(parallel society、元は独語のParallelgesellschaft)に加えて、「社会的コントロール」social controlという概念がデンマークにおけるディスコースで顕著に見られるようになっている。ムスリム住民が特定地域に密集して主流の社会と接点のない社会が構築されているという「平行社会」に空間的な次元が存在するのに対して、「社会的コントロール」とはムスリムの親などが子どもの生き方などに対して過度に干渉し、その成長及びデンマーク的価値観の受け入れを妨げているという概念である。「平行社会」同様根拠が極めて乏しいものであるが、ムスリム住民の育児の形態などに過度に立ち入るものを許すものである。なお2021年の後半にコペンハーゲンの「ゲットー」地区の住居売却及び破壊に対して差し止めの提訴がなされており、国連の人権機関も支持の声明文を出すなどしてサポートしている。「ゲットー」政策の国際人権法及びデンマーク憲法との整合性などを問う重要な裁判になるものと見られ、注目されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度同様コロナウィルス国際蔓延で予定されていた現地調査やカンファレンスでの発表などがいくつも延期(もしくは中止)を余儀なくされたが、インターネットを駆使して可能な限りの調査をして、発表や投稿などを積極的に行った。2021年度中はIslamophobia Studies Journal及び Journal of Islam and the Contemporary Worldにそれぞれ論文が掲載された。
2021年11月、カナダ・アルバータ大学主催のIslamophobia and/in Post-Secular Statesというカンファレンスで本研究の成果についてオンラインで発表して、一例としてデンマークの重要性を話した。選ばれたカンファレンスペーパーを刊行する書籍をUniversity of Alberta Pressで出版する予定で、寄稿を依頼されて、現在執筆中である。2021年11月、トルコ・イスタンブールに出張し、Global Coalition for Quds and Palestine主催のカンファレンスで本研究の成果について発表して、国際的なイスラマフォビアとパレスチナ問題が密接に繋がっていることや、国際法の重要性を話した。2022年3月、アラブ首長国連邦・ドバイのアラブ首長国連邦大学法学部主催のLaw and a Better World: Strengthening the Values of Coexistenceで本研究の成果を発表して、デンマークに限らず国際的な事象としてのイスラマフォビアに対抗するツールとしての国際人権条約の重要性を話した。2022年7月にポルトガル・リスボンで開催される2022 Global Meeting on Law and Societyも応募する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に二度の出張を行えたわけであるが、変更・キャンセル可能な航空券や数回のPCR検査などコロナウィルス国際蔓延にまつわる、計画作成時では予想し得なかった様々なコストがかかり、結果として2022年の残高が極めて少額になった。今年度は個人研究費などとうまく合わせて駆使する所存である。
今後の研究は大きく分けて、二つの方向性で進める予定である。まず、アメリカのカリフォルニア州立大学バークレー校とイギリスのリーズ大学が共同で設置しているIslamophobia Studies Centerの設立者などが中心となって初めてのイスラマフォビア国際学会が設立されて、筆者は初代財務理事を務めている。コロナウィルス国際蔓延で本格的な活動開始が遅れ気味であるが、2022年度中に立ち上げのカンファレンスを行いたいと話しており、学会を枠組みとして研究を進めていきたいと考えている。
もう一つは、引き続きデンマークに注目しつつヨーロッパの他国(オーストリアなど)の動向を調査するのに加えて、イスラマフォビアの研究にパレスチナを組み込むことである。筆者には5年間パレスチナに駐在して人権の仕事に従事した経験があり、国際連合を退職後もパレスチナの研究を続けている。そして特に欧米におけるイスラマフォビアの動向がパレスチナ情勢と深く関係し合っていることを日頃より実感している。そのあたりを今後学術的に研究分析して、情報発信ができればと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に続けて2021年度はコロナウィルス国際蔓延でいくつもの国際カンファレンスが中止または延期となり、2022年2月まで現地調査も不可能であった。2021年度の後半から海外渡航が少しずつ可能になり、出張は2回実現できたが、どれも変更・キャンセル可能な航空券の確保や数回のPCR検査など、計画作成時では予想し得なかった様々なコストがかかり、結果として2022年の残高が極めて少額になった。今年度はインターネットなどを駆使した上で、個人研究費などとうまく合わせて駆使する所存である。
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