本研究の目的は、①行政学において概括的に理解されてきたリスク選好概念を、経済学や心理学の知見を組み込みつつ分類すること、②分類された各リスク選好を実験やアンケートの手法を用いて抽出すること、③抽出されたリスク選好の構造を公務員志望者と民間企業志望者の間で実証的に比較すること、の三点である。①②については本研究計画の1年目に当たる2019年度に完了させた。本研究計画の最終年度に当たる2020年度は、③に関して以下の3点に取り組んだ。 第一に、調査票の作成である。2019年度に完了させた①②を踏まえて、陳述的測定に加え、行動的測定として多重報酬表方式と高次リスク選好抽出法を利用した調査票の作成を行った。 第二に、調査の実施である。2019年度、当初想定したよりも公務員志望者や民間志望者のサンプルを集めることが難しいことが分かったこと、公民比較という観点では、実際の公務員と民間労働者の比較のほうが望ましいこと、の2点を踏まえて、オンライン調査会社と協力しつつ、実際の公務員と民間労働者の比較を行うことに予定を変更し、2020年度冬に調査を実施した。 第三に、データの分析である。先行研究では、陳述的測定では公民差が認められることが多い一方で、多重報酬表方式を用いた行動的測定では公民差が認められていなかった。本調査の分析からは、陳述的測定での公民差の存在、多重報酬表方式による測定での公民差の不在という先行研究に一致する結果が得られた一方で、高次リスク選好に関しては明確な公民差を確認することができた。 既存研究では、公務員のほうが「リスク」を忌避するという通念が存在するが、この「リスク」の内容を、十分特定しないまま議論することが多かった。本調査は、経済学の知見を組み込み、多様な測定手法を用いることで、公民のリスク選好の差異の内実を解明したという意義を有する。
|