本研究は、EUとボローニャ・プロセスという複数の枠組みが並存することで形作られる、学生モビリティ促進をめぐる多元的かつ複合的なガヴァナンスの全体像を示し、その様相を解明することを目的としている。新型コロナウイルスの影響により、2年に渡ってヨーロッパでの現地調査を見送らざるを得なかったため当初予定から大幅に期間を延長した本研究課題であるが、今年度はその集大成を図った。 本研究では、学習モビリティに関するベンチマーク(LMHE2020)の事例に焦点を当て、その政策過程を実証的に分析してきた。初年度に実施した現地調査とその後の文献資料の分析からこれまでに明らかになったこととしては、EUとボローニャ・プロセスが別の枠組みでありながら、アクターの共通性と制度上の連関を通じたアジェンダの相互浸透が見られ、当事者からも両枠組みの意思決定の境界線が曖昧になっている点がある。また、両枠組みに共通するアクターがそれぞれにおいて果たしている役割、および2つの枠組みを通じたそれらのアクターの相互作用についても明らかにした。 また、今年度末の3月には、ヨーロッパでの現地調査をようやく実施することができ、ブリュッセルにおいて欧州委員会教育文化総局、ベルギー政府、EUAの政策担当者にインタビュー調査を行い、これまでに文献調査で得られた知見と総合することにより、分析の精緻化を図った。 以上から、本研究では、EUとボローニャ・プロセスという複数の枠組みがアクターや制度の面で部分的にオーバーラップしながら一体として機能している様態を実証的に明らかにするに至った。その成果は「高等教育分野におけるEUと欧州高等教育圏(EHEA) の協働ー学生モビリティのためのベンチマークの事例から 」として、11月に日本EU学会第43回研究大会で行った口頭発表、および2023年度公表予定の論文の一部となっている。
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