本研究は、近年発達している機械学習理論を計量経済モデルに融合し、計量経済学における分析手法を改善することを目的としている。特に、標本サイズが限られている場合に分析精度を高める手法を開発することに取り組んだ。 近年、IT技術の発展により、大規模なデータの収集と蓄積が容易になった。しかし、実際には十分なデータが入手できないこともある。例えば、感染症拡大の初期や、新しい通貨や株式が発行された直後など、分析したい事柄が起きてすぐの状況下では、分析に使用できるデータを十分に確保することが難しい。このため、限られたデータしかない場合でも、精度の高い分析ができる方法を考案することは、重要な課題であるといえる。 分析対象に関するデータが十分に存在しない場合でも、対象に関する情報を持つ別のデータが入手可能である場合がある。例えば、ある地域において感染症の拡大が初期段階である場合でも、他の地域では拡大がピークを超えており、分析をするのに十分なデータが得られることがある。また、すでに発行されている株式の価格に、新たに発行される株式の価格の情報が含まれているかもしれない。そこで、最終年度では、分析対象に関する情報を持つ別のデータを用いて、データが十分に存在しない事象に対する分析精度を改善する手法の提案に取り組み、新しい分析方法(推定量)を提案した。その推定量は一致性と漸近正規性を持ち、有限標本の下では、既存の手法と比べて、推定精度が良くなる場合があることを明らかにした。 この研究課題の下で得られた研究成果の一部を、国際学術雑誌に掲載することに成功した。また、国際学術雑誌において査読審査中である論文と執筆中の論文があり、引き続き、研究成果の公表に努める。
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