研究課題/領域番号 |
19K23188
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
笠松 怜史 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 助教 (50848364)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 政治的信頼 / モデル不確実性 / 汚職 / ゲーム理論 |
研究実績の概要 |
本年度は研究計画の順序を変え、研究目的(2)にある選挙における行動経済学・ゲーム理論的分析の研究である、政治的信頼の内生的変化と民主主義のパフォーマンスに関する研究を行った。 本研究は政治的信頼の内生的変化が民主主義のパフォーマンス(政治家の汚職度合)にどのような影響を与えるのかを分析したものである。本研究では政治家のタイプの分布に関して不確実性(モデル不確実性)に直面している投票者を想定した2期間のpolitical agency モデルを構築した。このモデル不確実性を導入することによって、従来の研究では焦点を当てることが難しかった政治的信頼の時間を通した内生的変化を描写することを可能にした。 本研究の結果は以下の2つである。(1)モデル不確実性によって政治家の汚職の度合いが増加する。(2) 本モデルではself-fullfillingな複数均衡が存在することを示した。どのような均衡があるのかというと、1つは政治家の汚職の度合が高い均衡と低い均衡の2つの均衡が存在する。 本研究の結果の解釈は以下のとおりである。まずモデル不確実性の解釈は、民主主義の成熟度合いを示すものである。民主主義が成熟している(していない)国、言い換えると民主化をしてから長い時間がたった(日が浅い)国であれば、選挙が何度も実施され(ほとんど選挙が実施されていない)ため、その結果自身の国の政治家のタイプに関する不確実性が少なく(大きく)なる。そして、(2)の結果は、民主化してから日が浅い国においては、有権者が自身の国の政治家が汚職を多くやっていると思うと政治家の汚職の度合いが高い均衡になり、自身の国の政治家が汚職をほとんどやっていないと思うと政治家の汚職の度合いが低い均衡が実現するということを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の本年度の研究計画の順番を変更し、選挙における行動経済学・ゲーム理論的分析の研究である、政治的信頼の内生的変化と民主主義のパフォーマンスに関する研究を行った。その結果として、予定していた内容よりも興味深い結果が得られたと考えている。また、大きな目で見ると交付申請書の研究の目的からは決してそれていないため、研究の進展に問題があるとは考えていない。 業績の方でも、日本経済学会での報告など、複数の研究会において報告することができたことも計画どおり進んでいると言える。ただ、海外の学会での報告機会を得ることができなった点、最終的なpublishまでたどり着かなかった点を考慮して、(1)ではなく(2)とした。
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今後の研究の推進方策 |
研究目的(1)を実行するための、アンケート・実験デザインの構築を行い、またその過程で出てくる政治・経済政策的問題をゲーム理論を用いたモデルを構築し分析を行う。 また、本研究の発想の基礎である、ネガティブキャンペーンに関する研究と租税競争とポピュリズムに関する研究の改定を行い、国際学術誌への投稿を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの流行により2月及び3月に予定していた学会出張及び研究打ち合わせ出張が大幅にキャンセルされたことにより、本年度研究費に余りが生じた。
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