本年度は研究計画の順序を変え、研究目的(2)にある選挙における行動経済学・ゲーム理論的分析の研究である、政治的信頼の動学と選挙過程に関する研究の拡張を実施した。 本研究は、東京理科大学経営学部岸下大樹氏との共同研究である”Dynamic Dilemma of Political Trust”という論文が中心である。本研究では、政治環境が良い状況(存在する政治家が「いい政策が何かが分かれば必ずそれを実施する」)か悪い状況(存在する政治家が「次の選挙に勝利」することを目的に政策を選択するタイプ(opportunistic type)か、自身の好きな政策を実施するタイプである状況)のどちらであるか有権者にはわからない状況について考察する。有権者は確率 p で政治環境が良いと初期に考えているとする。この確率 p を政治的信頼としてとらえると、「opportunistic typeの政治家は政治的信頼が高い状況だと利益団体にとって好ましく、かつ有権者にとって望ましい確率が低い政策を実施し、政治的信頼が低い状況だと有権者にとって望ましい確率が高い政策を実施する」というジレンマが存在することを示した。また、この環境に関して長期動学を考えると、政治的信頼がサイクルする可能性を示した。 本年度は上記の研究のブラッシュアップを図るために、(1)良い政治環境でも悪い政治家(opportunistic typeとideological type)が一定確率で存在するというより現実に即した一般化をおこない、その元でも上記と同様の結論が得られることを検証し、(2)利益団体が複数存在したとしても、その利益団体の好む政策が互いに違うのであれば上記と同様の結果が得られることを確認した。 また、上記の研究のほかに政治家による誤情報の戦略的拡散に関する研究を実施した。
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