研究課題/領域番号 |
19K23190
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
門脇 諒 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 特任助教 (90845041)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 知的財産権制度 / 競争政策 / 特許の藪 / 公知技術 |
研究実績の概要 |
いわゆる「特許の藪」の経済的非効率性を計測する目標を達成するため、ゲーム理論及び契約理論を用いた数理モデルの構築及びシミュレーション分析用のデータ収集とコーディング作業を行った。データに関しては民間業者に依頼し、特許引用データを引用種別に分類した独自データを構築した。これにより、拒絶理由としての引用や参考資料としての引用といった、引用特許と被引用特許の「依拠の度合い」が明らかとなり、現実の経済活動と関連性の強い特許引用形態が何であるかを分析する事が可能となった。当該モデルでは各企業が保有する特許権が他社の特許権に抵触するオーバーラップ状態を記述する。これにより、本来企業秘密である各企業が直面する特許ロイヤリティ水準の評価を間接的に行う事が可能となった。 当該モデルでは、必須特許のライセンス契約を行わない場合には「差し止め」が発生する事を想定している。しかし特許権のエンフォースメントは完全ではなく、現実的には差し止めの強制力がどの程度働くかによって、特許ライセンスの必要性は左右される。過去に実施したインタビュー調査を纏めたところ、属地主義である特許制度では、国・地域によって知的財産権の保護の度合いに大きな差があり、特定の場所では特許侵害をある程度許容する事により、特許の藪の問題を緩和させている可能性が示唆された。これは特許の藪の問題が深刻な所謂ハイテク産業では、知的財産権の保護を強める事により、かえって経済厚生を損なう可能性を示している。今後、地域別の知財保護の差を想定した上でのモデル構築を行う。 また特許価値の相互依存関係の重要性を示す研究として、日本の出願公開制度導入が特許価値に与える効果に関する研究を応用経済学会にて報告した。ある特許の情報公開は、その特許に依拠する新発明を招来し、それが当該特許の価値にも大きく影響する事が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス対策の影響により、実施予定であった企業へのインタビュー調査が困難となった。オンラインによる遠隔地からのインタビューで企業秘密に関わる情報の提供を受ける事は現実的でないため、当該感染症の一定程度の収束を待つ必要が生じている。 また新型コロナウイルス対策により、令和元年の年度末から実施予定であった複数の学会での報告が不可能となった。学会報告から得た知見を論文にフィードバックした上で国際誌に投稿する予定であるため、有り得べき改訂作業が遅れる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画調書に記載した通り、複数の学会でのフィードバックを得た上で論文を国際誌に投稿する事が本プロジェクトの目標である。新型コロナウイルス対策を実施する中でその目標を達成するため、理論的・実証的分析及び論文執筆は、web会議システムやクラウドを活用して共同研究者と情報共有を行いながら実施し、可能な限り遅延の無いよう進める。また同時に、研究のブラッシュアップをするため、取りやめとなった学会・ワークショップの代替としてオンラインでの研究報告会を実施出来るよう2カ月以内を目途に近接領域の研究者と情報共有を行う。その後、令和2年度内での論文の完成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
インタビュー調査の実施が滞ったため、インタビューに係る経費と、インタビュー実施の決定後に購入予定であった当該産業に関する書籍の購入経費を使用できなかった。令和2年度に繰り越し分を含め、インタビュー予算、書籍購入、論文の英文校正、学会報告等に利用する予定である。
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