研究課題/領域番号 |
19K23191
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
高田 直樹 横浜国立大学, 先端科学高等研究院, 特任教員(助教) (60846947)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | イノベーション / 技術革新 / 発明 / 逸脱行動 |
研究実績の概要 |
本研究は,組織における逸脱行動と技術革新の関係を検討するものである.とりわけ,逸脱行動が「些細な発明」をもたらす可能性を認めた上で,組織における逸脱行動が技術革新を促すか,逸脱行動が技術革新を促す条件とは何かを定量的に検証することを目的とする. 2019年度は,組織における逸脱行動に関する既存研究を整理し,それに基づいて分析用データセットの構築作業を進めた.既存研究では,従業員が高い問題解決要求と資源制約に同時に直面している時に逸脱行動が生じやすくなることが指摘されている.このことは,逸脱行動を観察しやすいサンプルを抽出する上で有益な知見であり,例えば主力事業が衰退期に差し掛かっている企業では逸脱行動が観察されやすい可能性を示唆している.また,一部の質的研究は,逸脱行動に与することによって個人や小集団がコミットメントや凝集性を高め,その結果としてパフォーマンスに影響が及ぶという因果経路を指摘している.この論理は,逸脱行動が技術革新を促す条件と照応するものであり,指標構築への応用可能性がある. こうした既存研究の指摘を踏まえ,データセットの構築作業としてサンプルの選定及び指標構築の作業を進めた.具体的には,政府統計から衰退期に差し掛かっていると判断できる複数の産業について特許データを収集し,発明の生産性や発明の新規性に関する調査を実施している. また,2019年度は,これまでの研究成果に基づいて論文の執筆および投稿も行った.既存研究のレビューを基にして特許指標を新規に構築し,発明者の逸脱度と発明の新規性との関係性を検討したものである.この分析結果は査読誌にて採択された(公刊時期未定).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は,既存研究や先行事例の調査,及び実務家への聞き取り調査に基づいて,発明者の逸脱行動を定量的に捉える指標の構築作業を行う予定であった. このうち既存研究の調査については,当初の計画通りに進めることができた.イノベーション領域のみならずマネジメント領域全般における関連文献を探索し,向社会的規則違反(pro-social rule breaking)や建設的逸脱(constructive deviance)に関する文献も参照しながら調査を進めた.この調査結果については,組織における逸脱行動論をイノベーション論へ拡張することを試みるレビュー論文を執筆中である. 先行事例の調査や聞き取り調査についても,おおむね順調に進展している.逸脱という主題であるため公刊文書から先行事例を調査することは困難ではあったものの,複数の実務家への聞き取り調査からは,研究開発における逸脱行動の先行要因や成果の傾向について示唆が得られた. 総じて,指標構築の作業は順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は,当初の計画通りにデータセット構築作業を実施し,分析に取り組む予定である. データセット構築作業としては,年度内上半期にサンプル選定および特許データの収集を行い,予備的な分析を完了する予定である.サンプル候補となる産業のリストアップは完了しているものの,名寄せ作業の工数などを踏まえる必要があるため,最終的な分析対象企業は10社前後となる見込である.指標構築の作業プロトコルは既に作成してあるため,特許データ(特に特許の引用データ)を入手し次第,逸脱度指標の計算作業を始められる状況である. 研究成果の報告と公刊については,学会報告と論文の投稿を引き続き行う予定である.2019年度に行った研究の結果は既に査読誌に採択されたため,今後はレビュー論文の執筆および投稿を行うとともに,2020年度に実施する予定の分析についても,学会報告と論文投稿を同時並行的に進める予定である.
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