研究課題/領域番号 |
19K23196
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
尾関 規正 東北大学, 経済学研究科, 講師 (60846038)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | 財務会計 / 監査 / 不正会計 / 実証研究 / 株価形成 / 会計的裁量行動 / 監査人 / パートナー |
研究実績の概要 |
本研究課題は、日本の不正会計開示事例を用いて、不正会計発覚後の企業や監査人に起こる帰結の実態や、それが生じるメカニズムを実証的に明らかにすることを目的とする。 不正会計とは財務報告における意図的な虚偽表示を意味しており、企業が財務報告を通じて利害関係者を欺く行為である。財務報告はその信頼性が前提となるため、不正会計の発覚した企業や不正を防ぐことができなかった監査人のレピュテーションは著しく阻害される。本研究課題では、不正会計発覚により企業や監査人に生じる影響を通じて、不正の当事者に起こる帰結の実態を示すとともに、発覚した不正会計の内容や企業または監査人の特性に基づいて、変化が生じる要因を明らかにする。 本研究課題は、具体的には以下の三つの課題に取り組んでいる。第一に、①不正会計の発覚後の企業における株価形成である。第二に、②不正会計の発覚が企業の会計的裁量行動に及ぼす影響の分析である。そして第三に、③不正会計の発覚がパートナー個人単位での監査人に与える影響の分析である。いずれも2005年から2016年までの不正会計開示事例を対象とした実証的な分析を行う。 従来、不正の摘発や予防を目的とする不正研究が広く行われているが、不正会計は人為的に行われ、隠蔽される性質を持つことから、その実行を完全に防ぐことは難しい。一方、これまでの不正事例の蓄積から当事者たちに起こる発覚後の変化を明らかにすることで、不正会計の実行に対するペナルティの大きさや、発覚後の対応による結果の違いを示すことができる。本研究課題による帰結研究の成果は、摘発や予防を目的とする他の不正研究とも相まって、不正会計を実行する意思決定を抑止する意義を持つ。そのうえで、財務報告の信頼性が失われる特異な状況において、企業や監査人の変化が生じるメカニズムを実証することは、財務報告に関連する学術的な領域における貢献がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題①については、当初の計画にはなかったテーマであり、研究の進捗後に新たに追加した課題である。本研究課題である不正会計発覚後の企業の変化を株式市場の側面から明らかにする研究であり、既存の課題とも相互に関連する成果となる。当初の計画とは別に2020年度において分析や論文執筆を行い、研究会における報告を経て研究論文を証券アナリスト協会機関誌において発表しており、追加した研究課題としての目標を達成した。不正発覚後の企業の株価形成において、外部からの信頼回復のために行われる第三者委員会による調査を受けると、株価が回復する傾向にあることを発見している。第三者委員会調査の市場における信頼回復に与える影響を示唆する結果である。 課題②および課題③は当初より計画していた課題であり、概ね順調に進捗している。課題②については、2020年度において分析や論文執筆を行い、研究会における報告、日本会計研究学会での発表を行った。それらを踏まえて、分析内容や論文の内容を改訂したうえで、報告時点では学会機関誌(査読あり)より採択されており、2021年度の公刊により進捗目標が達成される。不正会計発覚前後の企業の業績推移に関わる会計的裁量行動に生じる変化として、不正会計の開示期やその翌期以降で利益減少方向の変化が生じることを発見している。学会発表や査読誌投稿を経て改訂を繰り返すことで、研究成果はより明瞭になっている。 課題③については、2020年度においては2019年度までに執筆していたワーキング・ペーパーに基づいて研究会報告を行い、改訂を加えたうえで、英文査読誌に投稿した。採択には至らなかったものの、レビュワーより有効なコメントを受けており、分析デザインを再検討するための課題が明確化された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の当初の計画期間(2年間)が経過したが、研究進捗の遅れを理由に期間を延長している。残る二つの課題については、当初の計画に従って論文投稿や掲載の段階まで進めている。これらの課題の今後の推進方策は、研究会または学会における報告や査読誌への投稿を通じて、他の研究者からの意見を取り入れることである。 具体的には、課題③について、査読者からのコメントを踏まえて分析デザインを再検討したうえで分析を行い、論文を改訂したうえで、必要に応じて、研究会または学会における報告を行う。そして、再び査読誌への投稿を行うことを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題に残る具体的なテーマについて、引き続き研究会または学会における報告や査読誌への投稿と、その結果を踏まえた分析と論文の改訂を行う。このための次年度使用額として、投稿前の英文校正料金や査読誌への投稿料、投稿先となる学会への登録料(電子ジャーナル閲覧サービスも含む)が必要となる。また、査読結果によっては論文の改訂のための分析が必要となるため、分析対象となる企業や監査人のデータを期間経過に応じて更新する費用が生じる。その他には、延長した期間に渡って研究環境を維持するために必要な消耗品に係る使用額が生じる。
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