研究課題/領域番号 |
19K23199
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
脇 雄一郎 青山学院大学, 経済学部, 准教授 (20845101)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | マクロ経済学 / 異質的家計 / 集計定理 |
研究実績の概要 |
本研究では,家計の異質性、家計債務、産業連関、そして労働市場の摩擦を含めたモデルによる政策分析を研究目標としている.一般的に,異質的家計モデルでは,資産分布にダイナミクスが依存するため,解析的に結果を得られる場合は限定的で、数値計算による分析が主となる. しかし,異質的家計モデルでも,ある種の仮定の下で,資産分布への依存の仕方が簡単な形をとる場合がある.その一つとして,家計の効用関数をRINCE preferencesというクラスから選ぶ方法がある.このとき,経済のダイナミクスは,多数の個々の家計の資産がどのように分布しているかではなく,少数の家計グループごとに,そのグループに属する家計の資産を集計した,グループごとの資産の分布にのみ依存するとされる(集計定理).既存研究では,この性質を用いて世代重複構造を入れたモデルなどが解かれている. もし集計定理が,本研究に用いるモデルについても成立するのであれば,数値計算の負担を軽減し,その便益は高い.したがって集計定理が成立するかどうかを示すことは重要である.研究代表者は,集計定理が成立するためには,既存研究で示されていたよりも強い条件―家計の借り入れのインセンティブが十分弱い―が必要であることを示し,"RINCE preferences: a comment"(http://dx.doi.org/10.2139/ssrn.3532470)という論文にまとめた.この条件の下では家計の債務問題が起こり得ず,必然的にこの手法は本研究では用いることができないことが明らかになった. したがって,本研究では複雑なモデルを数値計算で解くことが必要となる. 2019年度においては,最終的に用いるモデルの単純化されたバージョンに取り組んだ.その結果,家計の異質性と,ごく単純な家計債務・産業連関・失業を含んだモデルについて,数値的に解くことが出来ている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
単純化されたモデルについては,数値的に解くことができているが,当初の予定ほど大規模な,複雑化したモデルを解くことはできていない.このため2019年度においては,その時点で大規模モデルを解く必要性が生じず,高性能ワークステーションも未調達であった.ワークステーションは2020年度初めに調達予定であったが,コロナ禍とそれに伴う大学キャンパス閉鎖の影響により,未だ調達出来ておらず,それに伴いデータ処理およびデータとモデルのマッチングの遅れが生じている.
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今後の研究の推進方策 |
若干の遅れはあるものの,研究遂行上の課題はないと考える.上記の遅れを取り戻すべく,2020年度前半においては,ワークステーションの導入を急ぐとともに,モデルの拡張とデータ処理に取り組む予定である.2020年度後半においては,研究結果を学術論文の形にまとめ,トップの学術誌に投稿するための準備も進める予定である.
当初の研究計画の中で,クイーンズランド大学への訪問を可能性として挙げたが,コロナ禍の影響で2020年度中のオーストラリアへの渡航は困難である可能性がある.実際の訪問ではなく,研究論文の草稿を送る・リモートでセミナー発表をさせてもらうなどしてフィードバックを得る予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していたワークステーションの購入(予算37万円)が遅れたこと,および旅費を要する学会・セミナー発表(予算3万円)が生じなかったため. キャンパス閉鎖解除以降,すみやかにワークステーションの購入を行う予定である.旅費については,次年度の学会・セミナー発表に用いる予定である.
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