研究課題/領域番号 |
19K23200
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
中村 祐太 横浜市立大学, 国際総合科学部(八景キャンパス), 講師 (30848932)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | メカニズムデザイン / 投票理論 / 社会的選択理論 / 紛争解決 |
研究実績の概要 |
紛争を解決に導くためには,紛争当事者間の対立する意思を一つに集約して解決案を導く必要がある.ここで,「意思集約」を行う際のポイントとなるのは,(1)紛争当事者たちから「どの解決案をどれだけ好んでいるか」という情報(=選好)を嘘偽りなく申告してもらうことと,(2)それらの選好に基づいて公平性や効率性などの望ましい性質を満たす解決案を見つけ出すことである. 昨年度までの研究では主に(1)の内容を中心的に扱ってきた.そのなかで,特に人々が正直に自分の選好を申告することが最も得となるような紛争解決の仕組み(メカニズム)を設計した.ただし,(2)の内容,すなわちそこで導かれる解決案が,公平性や効率性の面から望ましいかという点については議論の余地が残されていた. 以上の背景から,本年度は投票理論に関する研究を進めることで,公平かつ効率的な意思集約の方法を探究した.具体的には,投票のアカウンタビリティに関する研究と投票の対象となる選択肢(=アジェンダ)をいかにして決めるべきかという研究を行なった.前者の研究では,投票者と選択肢間の利害関係によって有利不利が生じないという意味で公平な投票ルールの設計に成功した.また,後者の研究では,アジェンダを提案する者にいかなるインセンティブを持たせることが投票者たちにとって望ましいかを明らかにした.これらの成果は,紛争解決の場面においていかなる意思集約方法を使用すべきかについても有益な示唆を与えるものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までで「研究実績の概要欄」に記載した(1)に関する研究は,当初の予定通りに完了したと言える.一方で,本年度より開始した(2)に関する研究は,未だ投票に関するものに限られているため,今後の研究でより広範な環境へ拡張する必要がある.つまり,投票では金銭移転を用いないで意思決定を行うのに対し,紛争の解決では金銭移転も許容されるケースが多いため,「金銭の移転」の有無が意思集約にどのような影響を与えるかを分析する必要がある. また,コロナ禍においても学会運営が徐々に再開されたことにより,本年度はオンラインでの学会報告を行うことができたものの,対面での発表を基にフィードバックを受けることは依然としてできていない.以上から本年度の研究を総括すると,専門家との意見交換の機会を引き続き設ける必要こそあるものの,本研究は順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
今後は「研究実績の概要欄」に記載した(2)の内容に関して,投票環境での分析と金銭移転も認める環境での分析を同時並行的に行なっていく.具体的には,次の三つの課題に取り組むこととする. 第一に,投票環境において,投票者たちの選好が正反対であることを原因として紛争が起きているときに,いかなる性質を満たす投票ルールが設計可能となるかを分析する.特に,投票者たちの選好に関する構造(ドメイン)と設計可能なルールの関係を調べる.第二に,金銭移転が可能な環境において,投票環境での知見を応用することで同様の分析を行う.第三に,これらを総括することで,紛争解決の文脈において,金銭移転が可能な場合とそうでない場合について望ましい解決案の決定方法をそれぞれ提示していく.今後の研究では,これら三つの課題に取り組むことで,公平性や効率性といった“望ましい”性質を持つ紛争解決のプロセスを提示することを目標としたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス蔓延の影響で計画当初から予定していた出張が困難になったため.残額は,(出張が可能となれば)旅費と計算ソフトなどの物品費として使用する.
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