研究実績の概要 |
本研究では,紛争を解決するためのプロセスとして,(1)紛争当事者たちから実行可能な選択肢に対する選好を聞き出し,(2)それらをもとに当事者たちにとって望ましい決定を行うことを考えてきた.昨年度までの研究では,(1)と(2)について,当事者たちから真の選好を引き出しつつ,効率性や公平性が満たされる望ましい決定が行える制度の設計に必要な条件を明らかにした.ただし,昨年度までの研究では,紛争を仲裁する第三者が当事者たちとは完全に中立的であることを前提とし,そのような仲裁者がいかなる役割を果たすべきかを分析していない. そこで,本年度の研究では,以下の二つの分析を行なった.第一に,紛争の仲裁者が複数存在し,各仲裁者が紛争当事者たちと利害関係があるケースを分析した.具体的には,利害関係がある際の集団的意思決定を新たなモデルとして定式化し,そのような環境でいかなる投票ルールを用いれば,特定の紛争当事者を贔屓することなく,公正さを担保できるかを明らかにした(Fujiwara-Greve, Okamoto, Nakamura, and Kawada (2023)において,より一般的な環境で分析を行なっている). 第二に,紛争の仲裁者が一人の(もしくは複数人でも利害関係や意見の相違がない)ケースを考え,紛争の解決プロセスにおいて仲裁者が果たすべき役割を分析した.その結果,従来のMyerson (1981)的なメカニズムとは異なり,仲裁者(=メカニズムの実行者)に求められる役割は不確実性の解消(確率分布の特定)ではなく,サポート(台;確率がゼロでない選好プロファイルのこと)を限定するための情報収集であることがわかった. 上記で述べた一つ目の研究成果については,Econometric Society European Meeting 2023(バルセロナ)で報告を行なった.
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