動学式の定式化作業を進行しているが、モデル全体のパラメータの数が膨大になっている。このため、数値解の導出も容易ではなく、パラメータを倹約したモデルの再構築を進めている。ナイト的不確実性の仮定と波及構造のパラメータに関する見直しを行い、計算量がある程度節約される分析フレームワークができつつある状況である。また、本研究から得られた知見を活用し、以下のような研究を副次的に行っている。 (1)分析を進めていたLucas-tree型モデルに、感染症動学であるSIRモデルを組み込んだ資産価格モデルを開発した。そのモデルにCovid-19の実績値を当てはめて、政府の就業規制政策によって、各国で観察されている株式価格の騰落現象が説明可能であることを示した。本研究は、Research in International Business and Financeに掲載されている。 (2)資産市場におけるナイト的不確実性の解消に伴う、社会厚生分析の理論モデルを開発した。 その結果、ナイト的不確実性の解消は、パレート効率的な厚生改善とはならないこと、パレート効率的な社会構成の改善を達成する、補助金(税金)の範囲が存在しうることなどを示している。本研究はAnnals of Financeに掲載されている。また、この研究に取引コストを組み込んだモデルの拡張を行い、計算が概ね完了した。現在、執筆作業中である。 (3)資産のリスクプレミアムが、古典的な市場ベータではなく、市場リターンとの共変動回数に依存することを示した、米国おける先行研究の結果の日本市場における検証を行った。その結果、日本市場では、共変動回数に起因するプレミアムは観察されなかった。しかし、提案指標に基づく分位ポートフォリオのアルファが単調性を有しており、何らかの情報を持つ結果は示唆された。本研究は大阪学院大学経済論集に掲載されている。
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