研究の最終的な目標は、「日本のような規模の大きい経済で国家債務危機が起きた場合に、どのような政策を行えば、その経済損失は最小化されるのか」という問いに解を与えることである。それを成し遂げるために必要な研究としては、いくつかの段階に分かれる。(1)現在主流である国家債務危機のモデルは有用でないことを示すこと、(2) インフレ等も考慮に入れた先進国での国家債務危機に適応可能なシンプルなモデルを構築すること、(3)その上で、ある程度の複雑性を有したモデル(金融部門の危機を伴うなど)を構築すること、(4) 様々なシミュレーション分析により、経済損失が小さくなるような政策を見出すこと、にある。本研究では、まずは第一段階として(1)の点に取り組んだ。 現在の国家債務危機のモデルは、戦略的財政破綻(strategic default)モデル及び自己実現的財政破綻(self-fulfilling default)モデルが主流である。本研究では、この2モデルに対して、2つのパラメータを設定する方法を用いた。一つはデータから推計する方法で、もう一方は、シミュレーションから得られるデータを基準となる現実のデータに当てはめる方法(Methods of Simulated Moments)である。そのパラメータの設定をギリシャ・アルゼンチン・重債務貧困国の平均・先行研究の4つから分析した。 分析結果から、戦略的財政破綻モデルではいかなる国でも財政破綻が起きないことが示された。自己実現的財政破綻モデルでも重債務貧困国の平均以外は財政破綻は起きないという結果が得られた。これらの結果は、現在の国家債務危機モデルが、日本のような規模の大きい経済での政府が債務危機に陥る分析に適していないことを表している。よって、新たなモデルの開発が必要となるが、それは以後の研究課題としたい。
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