本研究は、栄養格差をもたらす背後の要因として、食料品の価格に焦点をあて、複数の公的統計を分析に用いてきた。具体的には、『家計調査』、『全国家計構造調査』、『小売物価統計』、『消費者物価指数』(いずれも総務省)等である。これらの統計調査をもとに作成される各種公表値は、現状の把握、景気判断、政策決定等で重要な役割を果たす。ただし、統計調査の公表値ではカバーされない問題があることも確かである。具体的には、調査期間が特定の時期に限られる調査方法の限界、あるいは、公表値の算式範囲や方法が限定されている場合、等である。本研究は、関連する共同研究とともに以下の点を明らかした。いずれも、上であげた公的統計を活用し、属性間、あるいは時点間の実質消費、インフレ率の格差の分析に取り組んだものである。
(1) 『家計調査』を活用し、世帯属性別の栄養摂取状況を推計した。年齢や所得をはじめとする世帯属性間で、栄養摂取量に有意な差があることが明らかになった。(2) 47都道府県の食料品の年間平均価格をもとに、都道府県「間」の価格指数を推計した。食料価格指数については、都道府県間で顕著な違いは観察されないものの、指数算出間で無視できない違いが生じる点も明らかになった。(3) 『全国家計構造調査』を用い、都道府県別の所得階級別の価格指数を推計した。2019年以降、所得階級間のインフレ率の差が、都道府県により異なる推移をたどっている点を確認した。(4) 『家計調査』を用い、世帯主年齢、世帯年収、居住地域別の価格指数を推計した。特に、2020年以降は、属性として年齢を考慮するか否か、が実質消費の推計に大きな影響を与えることが明らかになった。
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