研究課題/領域番号 |
19K23224
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
高畠 哲也 広島大学, 社会科学研究科, 助教 (80846949)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | ラフボラティリティ / 確率ボラティリティ / 非整数Brown運動 / 高頻度データ |
研究実績の概要 |
金融資産価格変動のリスク管理は、金融機関業務や企業経営を行う上で重要であり、リスク管理の際には価格変動の大きさを表すボラティリティが特に重要な要素となる。近年、ラフボラティリティモデル(対数ボラティリティ過程が非常に小さい自己相似指数(Hurst指数)を持つ非整数Brown運動で駆動される確率ボラティリティモデル)と呼ばれる株価モデルが、既存モデルでは再現不可能なデ ータの特徴を再現でき、更にボラティリティ変動の予測精度を向上させるため、数理ファイナンス分野の研究者を中心に注目されている。しかし、ボラティリティが金融市場で直接的に観測できない潜在変数であることや、実現分散の計測誤差の影響に起因して、ボラティリティ変動の激しさに関連する自己相似指数の検定統計量の構成や、自己相似指数の推定量や検定統計量の漸近分布の導出を行うためには、未だ多くの問題が存在する。本研究では、対数実現分散時系列の差分列を局所近似することで導出される近似尤度に基づく推定量の漸近分布を導出し、実現分散時系列データに基づいたボラティリティ変動の激しさに関する統計的仮説検定理論を構築する。そして、実データへの応用を通して、ラフボラティリティモデルの整合性をより精緻に検証する。
研究目的の達成に向け、今年度は、対数実現分散時系列の差分列を局所近似した際に主要項として現れる定常Gauss時系列の尤度比の漸近挙動の解析を高頻度観測の状況下で行なった。より具体的には、上記問題を考える上で本質的には同じ統計モデルである、非整数Brown運動の高頻度観測データが正規型移動平均過程を観測ノイズとして含む状況下で、尤度比の漸近挙動の解析、そして漸近挙動の解析に必要である観測時系列の差分列から定まる二次形式のモーメントに関する極限定理について研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は主に以下の3つの研究成果を得た:正規型移動平均過程を観測ノイズとして含む非整数Brown運動の高頻度観測時系列に対して、(1)観測時系列の差分列から定まる二次形式の任意次数モーメントに関する極限定理の証明、(2)観測データが従う確率分布族の尤度比に対する局所漸近正規性の証明、(3)Hajek-Le Camの漸近ミニマックス定理を用いた自己相似指数と拡散係数の推定量の最適な収束レートと漸近分散の導出。また、非整数Brown運動の高頻度観測データから自己相似指数と拡散係数を同時推定する状況下で非退化なFisher情報行列を導出するために必要な収束レート行列の非対角化に関して、先行研究と同じ方法では観測ノイズの影響が相対的に大きい場合にFisher情報行列が退化するといった新たな現象に遭遇したが、独自の方法で問題解決までできたため、研究活動は順調に進展していると判断する。得られた研究成果の一部は、第七回数理ファイナンス合宿型セミナーの招待講演の中で報告を行った。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、今年度得られた研究成果をMixed fBm(通常のBrown運動や非整数Brown運動(fBm)では表現できない、長期記憶性とセミマルチンゲール性を両立させるノイズとして、数理ファイナンス分野の研究者の間で関心を持たれている)を含む枠組みまで拡張した後、得られた研究成果を用いて最尤推定量やWhittle推定量の漸近分布の導出と最適性について研究を行う。更に、これまでに得られている対数実現分散時系列の差分列を局所的に正規近似した際の近似誤差評価を用いて、【研究実績の概要】の欄で述べた近似尤度に基づく推定量の漸近分布を導出し、ボラティリティ変動の激しさを検証するための仮説検定理論を構築する。その後、得られた研究成果を論文にまとめ、権威ある査読付き国際誌へ投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響で、当初参加を予定していた研究集会が未開催になったことや、計画していた共同研究者の招聘が延期になったため、次年度に研究経費を繰り越した。繰り越した研究経費は、延期した共同研究の実施や研究集会への出張などに利用して行くことを予定している。
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