金融リスク管理では、多数の資産価格変動で下落方向への従属性が高まる現象について、正規接合関数を用いることはストレスへの対応として不十分とされ、変量間の裾での従属性の強いt接合関数が用いられることがある。しかし、t接合関数では価格変動の上下方向の従属性を対称に捉え、上昇よりも下落方向での従属性が高まりやすい非対称性を捉えられない。本研究では、変量間の裾での強い従属性を捉えるとともに上下での非対称性も捉えるような接合関数について金融リスク管理への応用を念頭に分析を進めた。 まず、多変量非対称t分布に内在する非対称t接合関数について利用されている複数の定義を整理したうえで、それらの非対称t接合関数を用いてポートフォリオリスク把握を行う実証研究を行い、2020年度までに国内外の多数の研究集会で報告・議論した。また、「非対称t接合関数の性質と統計的推定方法」を査読付学術誌『統計数理』で公表した(2020年6月)。 2020年8月の共同研究集会「極値理論の工学への応用」では「非対称t接合関数の裾依存性」について理論分析を深めて報告を行った。この理論分析をより一般の非対称な接合関数、特によく用いられる正規接合関数に非対称性を加えた非対称正規接合関数に関する極値での従属性(裾依存性)も含めて拡張し、2021年度には、『日本統計学会誌』で「極値での従属性および非対称性と信用ポートフォリオリスク」を公表した(2021年9月)。また、2021年8月の共同研究集会「極値理論の工学への応用」では「2変量接合関数の極値での従属性について」の報告を行い、2021年9月の2021年度統計関連学会連合大会では「非対称正規コピュラの裾非対称性尺度」について報告を行った。また、裾非対称性尺度の理論分析については共著者として論文の執筆に携わり、Statistical Papers誌で公表した(2022年3月)。
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