研究課題
本研究の独自性は、南アフリカのアジア系住民による抵抗・交渉・同調・迂回といった諸実践が当地の人種的秩序に与えた影響について、南アフリカ一国内の現象としてではなくグローバルな人種編成史のなかに再定位しながら検討することにあるが、本年度の課題は、そのアプローチのいっそうの精緻化に向け、トランスナショナル空間における人種化の過程を論じるための方法論を彫出することにあった。その達成に向け、本年度は以下の2点に注力した。第一に、文献研究として、レイシズム研究の古典である人種編成論や国際社会学/トランスナショナル社会学/グローバル社会学分野の研究を行い、またオンライン研究会等の場で批判的検討を重ねることで、従来型の社会学におけるレイシズム研究の課題を抽出した。第二に、データ収集と分析については、新型コロナウィルス感染症の影響により当初計画していた南アフリカとイギリスでの調査は中止せざるを得なかったものの、日本国内でインタビュー調査とアーカイブ資料の収集を行い、データの分析を進めた。上記を通じて得られた知見をもとに、人種編成論の脱領域化へと至る重要な手がかりとして「連なりconnectivies」への着目を提唱するに至った。主たる成果である査読論文においては、1930年に南アフリカと日本とのあいだで交わされた紳士協約に注目し、南アフリカの政策的判断と日本側からの交渉の双方が、19世紀中葉からのアジア人の移動とそれを梃子にして生成されたグローバルな人種編成の産物であったことを実証的に示した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、①文献研究(レイシズム研究、国際社会学分野)、②データ収集と分析(日本国内でのインタビュー調査・アーカイブ調査)、③研究成果の発表(査読論文、学会での口頭発表、論集への寄稿の発表)について、ほぼ計画どおりに達成することができた。また、次年度に予定されている国際研究集会(オンライン)での口頭発表や英語論文の発表の準備にも着手することができた。新型コロナウィルス感染症の影響により、当初計画していた南アフリカとイギリスでの調査や研究者との意見交換については制約を受けることとなったものの、オンラインで開催された研究会等を通じてデータ分析を洗練させるような討論の機会をじゅうぶんに確保することができた。総合的な評価としては、おおむね順調に進展しているといえる。
研究の推進方策に大きな変更はなく、引き続き南アフリカのアジア系住民の位置の変遷と彼らの交渉に関するデータの収集、文献研究を進める。さらに、本研究の成果の取りまとめに向け、オンラインで開催される学会や研究会等での発表と討議を通じて理論的課題に関する解決を図る。懸念される新型コロナウィルス感染症の影響に対しては、以下のような対応を行っていく。①海外調査について:当初より計画していた南アフリカとイギリスでの調査については、慎重に検討したうえで2021年度前半までに判断する。渡航困難と判断した場合には、オンラインによる調査手法(オンライン・インタビューや質問表調査)を積極的に取り入れて調査を継続する。②研究成果の発表について:オンライン開催が予定されている南アフリカ社会学会(South African Sociological Association)や日本社会学会の年次大会に参加し、研究成果の発表を行う。また、従来からの計画どおり英語・日本語での論文の発表や書籍刊行を行う。③ネットワーキング強化について:あらたに導入を計画している試みとしてwebサイトを開設して英語・日本語での発信を行い、これを通して南アフリカの調査協力者とコミュニケーションを図るとともに、南アフリカの研究者と研究成果を共有し、意見交換のためのプラットフォームとする。
研究計画の段階では、南アフリカにてインタビュー調査とアーカイブ資料の収集、イギリスにてアーカイブ資料の収集や研究者との意見交換を予定していた。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響により渡航を断念したため、直接経費のうち海外調査経費相当額を次年度使用とすることになった。今後の海外渡航の可能性については2021年度前半までに慎重に検討するが、渡航困難と判断した場合にはオンラインによる調査(オンライン・インタビューや質問表調査)も導入し、引き続き調査を継続する。また、webサイトを開設して英語・日本語での発信を行うことにより、研究成果の公開、南アフリカの調査協力者や研究者との研究成果の共有・意見交換に加え、ネットワーキングを強化することも計画している。
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研究紀要(日本大学文理学部人文科学研究所)
巻: 101 ページ: 43 - 60