研究課題/領域番号 |
19K23248
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
仁井田 典子 東京都立大学, 人文科学研究科, 客員研究員 (00852170)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | 女性 / 社会運動 / 個人化 / 貧困問題 |
研究実績の概要 |
本研究は、2008年に「女性の貧困の可視化」を目的として立ち上げられたネットワーク組織である「女性と貧困ネットワーク」とはいかなる運動および運動体であったのかについて明らかにすることを目的としている。今日の日本社会においては、人と人とのつながりが希薄化して個々人がバラバラにされていく「個人化」が進行しており、社会運動や労働運動に対する関心が低いことが指摘されている。そうしたなかで、人と人とがつながることを主な目的とする社会運動がみられるようになってきていると言われる。また、社会運動や労働運動においては、男性中心の組織運営が行われており、女性たちは周縁化されているといった指摘もみられる。その一方で、女性のみを対象とした労働組合においては、労働運動への対処を自分たちで行なっていくなかで、平場で上下のない組合員同士のつながりを構築し、活動を通じてエンパワーメントされるといった現象がみられる。 「女性と貧困ネットワーク」のような、より多様な女性たちが集まるネットワーク組織において、そこに集まる女性たちによってどのような関係性が構築され、どのような活動が行なわれていたのか。また、かかわる人たちがより多様であるがゆえに、このようなネットワーク組織は消滅する可能性を多くはらんでいると考えられるが、組織としてどのような過程をたどったのか。そして、そこにかかわった女性たちがネットワーク組織で得た人的なつながりは、彼女たちそれぞれのその後の活動にどのような影響をもたらしたのか。これらの点について、積極的にかかわっていた女性たちへのインタビュー、彼女たちによって書かれた文書記録などを用いて考察する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、前年度に行った「女性と貧困ネットワーク」に積極的にかかわっていた女性たち10人から得られたインタビューをもとに、この女性の貧困の可視化を目的としたネットワーク組織とはいかなる運動および運動体であり、組織としてどのような過程を経ていったのかについて、日本解放社会学会、日本都市社会学会で報告を行なうことができた。しかしながら、発表で得られたコメントを原稿に反映させ、論文として投稿することはできなかった。 また、インタビューイの女性たちによって書かれた文書記録や「女性と貧困ネットワーク」について書かれた文書記録や論文を用いた考察については、ほとんど進めることができなかった。 研究の進行が遅れてしまった要因としては、文書資料や論文を用いた考察については、コロナ禍において施設が一時的に閉鎖されたり移動が制限されたりしたために、それらを収集する作業を思うように進められなかったことが挙げられる。また、インタビューイの女性たちそれぞれがそれ以前にかかわっていた活動や、このネットワーク組織に期待するものが人によって大きく異なっていることに戸惑いを感じてしまい、研究を進めるうちに自らの立ち位置を見失ってしまったことも、進行が遅れてしまった要因として挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度はまず、学会発表でいただいたコメントをもとに、「女性と貧困ネットワーク」の活動に積極的に参加した女性たちへのインタビューをもとに論文として完成させ、学会誌に投稿する。 本研究を始めた当初とは異なり、昨年度からコロナ禍に入ったために、貧困や貧困にかかわる社会運動に対する社会的関心が高まっている。それゆえに、2010年前後に貧困と名打った社会運動に集まった女性たちのネットワーク組織とはいかなるものであったのかについて明らかにする本研究は、再び貧困が社会的な関心を集めているコロナ禍の今日と比較検証することができる重要な記録となることから、研究意義がより高まっていると言えよう。実際に、「女性と貧困ネットワーク」が結成されるきっかけとなった「反貧困ネットワーク」は、コロナ禍の現在においても活動を続けている。また、コロナ禍における女性の貧困問題に対処する運動については、組織横断的に形成されている。これらのことをふまえて、2021年度は「女性と貧困ネットワーク」だけでなく「反貧困ネットワーク」について書かれた論文や積極的にそこでの活動にかかわってきた人たちによって書かれた著作などの文書記録を収集し、「女性と貧困ネットワーク」だけでなく「反貧困ネットワーク」を中心とした近年の日本における貧困にかかわる社会運動がどのような過程を経てきたのかについてもあわせて考察していきたい。 そのほか、「女性と貧困ネットワーク」に積極的にかかわっていた女性たちのなかで、このネットワーク組織での活動自体に「楽しみ」をみいだして参加していた女性たちを中心に、インタビューの語りと彼女たちそれぞれによって書かれた文書記録などを用いて、「女性と貧困ネットワーク」での活動を中心とした彼女たちそれぞれの生活史を描き出したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会交通費に研究費の多くを割り振っていたが、コロナ禍で学会がオンラインで開催されたことにより使用しなかったことから、当該助成金が生じた。当該研究にかかわる文書記録や著作などの資料収集にあてたいと考えている。
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