最終年度においては、これまで収集したデータの整理および成果のとりまとめを行った。映像データについては、ミニDVテープをデジタル化する作業を行い、一部状態が不良であったものを除き、ほぼ全てのテープの作業が完了した。成果のとりまとめとしては、都市空間と労働者文化、ビジュアルエスノグラフィー法について、それぞれ共著への刊行が予定されており、研究会での報告などを通じて執筆を進めた。 研究期間全体を通じて、国際・国内学会や研究会、共著書籍への出版企画への参加を通じて、得られた成果は次の通りである。第1に、ビジュアルエスノグラフィー法について、それが単なる視覚のみに依拠したアプローチではなく、調査を遂行する身体性に依拠したアプローチであること、さらには実践の映像作品化が、作品として発表して完結するのではなく、映像の受け手も含め、実践の意味生成をめぐる重層的かつ対話的なプロセスであることを明らかにした点は重要な成果である。第2に、都市空間論や物資性をめぐる議論との接合により、労働組合実践を「事務所」や「カフェ」といった諸空間相互の関係や付置連関に位置づけることで、理論的解像度を上げることができた。特に、先行する労働者文化論との接続を行うことにより、通歴史的な視野のもと研究対象が持つ歴史的意味をとらえる視点を獲得できたことは大きな成果と言える。第3に、ほぼ全て映像データのデジタル化を行なったことで、映像作品化の基盤および映像データの保存作業が大きく進展した。
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