この研究は、日韓両国におけるセルフ・ネグレクトへの予防・支援モデルの構築を目的に、従来の研究において等閑視されがちであった当事者の視点及び心理・社会的要因を解明することに着目して、セルフ・ネグレクトとそれに影響する要因との因果関係を実証的に検討する基礎研究である。研究の目的を達成するための研究課題として、次の3点をあげている。1)日常生活動作と心理社会的要因(経済的状況・家族関係・喪失感・健康状態・対人関係)がセルフ・ネグレクトにどれほど影響を及ぼしており、その間にソーシャルサポートと自己統制感の調節効果を検証すること。2)セルフ・ネグレクトが精神健康と自殺念慮にどれほど影響を及ぼすかを明らかにすると同時に、研究課題1の結果から得られた知見を踏まえて高齢者の精神健康と自殺念慮に影響する要因を多角的に検討するこ と。3)研究課題1・研究課題2の結果を考察し、日韓比較を試みることであった。 2019年度から日韓両国において、一人暮らし高齢者を対象にアンケート調査を実施し、韓国では2019年10月から11月までA市に在住する独居高齢者406名を対象に訪問面接調査を実施した。日本では2020年3月から10月までB市に在住する高齢者を対象に郵送調査を実施したが、新型コロナウイルスの拡大により調査が中止になるなど計画通りに進めることができなかった。調査票は131部が回収された。 最終年度では、日本調査から得たデータを量的に分析し、様々な統計プログラムを用いて試みたが、統計学的に有効な結果を出すことはできず、残念ながら日韓比較検討は本研究の限界として残した。それにもかかわらず、韓国調査のデータ分析から、高齢者が危機的ライフイベントを通してセルフ・ネグレクト状態となり、心理的要因が媒介変数として有効に影響することを明らかにしたことなどは学術的に重要な知見を与えるものであると考える。
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