研究課題/領域番号 |
19K23266
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
太田 美奈子 新潟大学, 人文社会科学系, 助教 (80846915)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | テレビ電波 / 無線 / 区域外波受信 / インフラストラクチャー / マイクロ波回線 / 地方 / 県域 / 初期テレビ受容 |
研究実績の概要 |
本年度はテレビが新しいメディアとして地方に普及する過程を具体的に明らかにすべく、青森県内各市町村のフィールドワークに従事した。調査地は大鰐町、八戸市、青森市、田子町である。 秋田県との県境に位置する大鰐町の人々は、青森県にテレビ局が開局する前、函館からの電波受信を試みた。受信に成功すると山頂にアンテナを設け、有線ケーブルを引き各家庭でテレビを視聴している。受像機の上にお供えを飾る風景が見られており、現在とは異なるテレビの捉え方があったと想定される。一方で似た緯度の八戸市では、根岸小学校が盛岡からの電波受信に成功し、テレビ教育で一躍有名となった。テレビ受像環境が整う前、県内には北から南から電波を受信し、各地域の文化的背景から豊かにテレビを受容する姿があった。 青森市は1959年に県内で初めてテレビ局が開局した地域である。しかし本放送以前の8年前、青森市の人々はNHKのテレビカーによってテレビ受像機を体験していた。青森市の人々にとってテレビは中央集権的にもたらされるものであった。 田子町は県内各テレビ局開局後も電波を受信することができなかった地域である。住民は「田子町テレビ共同聴視会」を組織し、NHKからの助成も受けてテレビ視聴環境を整えた。田子町に電波が届かなかった要因は、都市部からの距離や山岳という地理的条件にある。戦後民主主義を実現するメディアとして期待されたテレビは、情報格差における新たな中心と周縁を生み出す側面もあった。 これらの調査を契機に、テレビの電波範囲とその関わりという観点から、青森県の初期テレビ受容を捉え直すという着眼点を得た。その位相は大きく3つに分類できる。(1)県外から発射されたテレビ電波の受信:大鰐町、八戸市(2)県内のテレビ電波の受信:青森市(3)県内のテレビ電波の受信が困難:田子町である。無線というテレビの技術的側面が草創期の多様な受容を生み出していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたすべての地域のフィールドワークを終えたわけではないが、新たな知見が得られ、本研究を次の段階へ進めることができた。この知見によって新たに「青森県におけるテレビ電波範囲の変遷」についても調査の必要性を感じ、本年度は各年代の電波地図を収集するなどした。追加された作業ではあるが問題なく進行している。また、2020年度の発表に向けてふたつの国際学会に応募し、無事採択されており、これまでの研究成果を海外に発信するという次年度の下準備が整った。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は予定通り、海外へ研究成果を発信する作業に力を入れる。エルキ・フータモが提唱したメディア考古学の実践例として、青森県の初期テレビ受容という日本のローカルな事例を広く海外に示し、議論の契機としたい。国際学会はIAMCR(International Association for Media and Communication Research)とEAJS(European Association for Japanese Studies)に採択されたが、新型コロナウイルス感染症により、IAMCRはオンライン開催、EAJSは来年度に延期となった。EAJSの参加・渡航費用については、来年度へ予算の繰越申請を行いたいと考えている。 海外への発信と並行して、引き続き青森県でフィールドワークを実施したい。テレビの電波範囲という本年度の新たな着眼点をもとに、県内様々な地域のテレビ受容を見ていきたいという気持ちがある。しかし新型コロナウイルス感染症の発生により、本年度末は対面での調査が憚られた。今後は状況を見て青森県での調査を再開しようと考えているが、対面での聞き取り調査は慎重を期する。次年度のフィールドワークは、昨年度収集した文献資料や聞き取り調査による彼らの語りなどの一次資料を裏付ける資料収集を、図書館や役場において実施するに留まると想定される。また岩手県から発射され青森県にはみ出る電波が県内のテレビ受容に重要な役割を果たしていると判明したため、資料収集のフィールドワークは岩手県においても実施したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額として生じた35,445円は、購入した機材の金額である。しかし誤って会計を申請してしまい、個人経費(新潟大学の基幹的経費)から拠出することとなった。以後気をつけたい。こちらの次年度使用額は物品費に充てる予定である。
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