研究課題/領域番号 |
19K23269
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
堤 晴彩 鳥取大学, 地域価値創造研究教育機構, 助教 (50848421)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 地域資源 / 統計力学 / 木材 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、これまで少なかった理系研究の視点により地域資源活用の意義を探索することであり、地域産(地域資源)と外部産を比較した際、両者にどのような変化や違いが生じているのかを統計力学的手法により定量的に明示する。その皮切りとし、本研究では奈良県吉野町と鳥取県智頭町での杉樽醸造させた地ビール事業をケーススタディとして実施している。2019年度は、申請書に記載したように以下の4つの実験パターンにおいて実施したが、事前に行った予備実験から小規模での詳細な実験が必要であると判断したため、樽を模した木製容器及び木粉に代替し実験的に検証した。 【実験パターン】①智頭で智頭杉樽により製造したビール、②智頭で吉野杉樽により製造したビール、③吉野で吉野杉樽により製造したビール、④吉野で智頭杉樽により製造したビール。①と③が同地域産同士で製造したビールとなり、②と④が他地域要素が混在され作ったビールとなる。 それぞれの供試体に対して、スギ材に含浸させたビールから近赤外スペクトルデータを計測した。統計力学的に解析するため、計測された近赤外スペクトルデータの共分散行列を固有値展開することで得られた固有値の集合をエネルギー関数(ハミルトニアン)と定義し、ハミルトニアンを構成するすべての固有エネルギーの総和である分配関数を算出した。それをもとに、カノニカル分布、Helmholtz自由エネルギー、エントロピーを導出し、地域産と外部産に分類される各供試体のエネルギー状態を定量的に明らかにした。また、本研究の要となる統計力学的手法の基礎的研究について、国際学会と国内学会の計2報を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画に沿って、統計力学的アプローチによる一連の解析が完了し、地域産と外部産に分類される各供試体のエネルギー状態(カノニカル分布、Helmholtz自由エネルギー、エントロピー)を示す数値を得ることができた。あわせて、本解析手法の統計力学的アプローチにおける基礎研究についても学会で2報発表し、解析精度の向上及び解析結果の考察の多様化を図ることができた。一方で、同地域産同士で製造したビール(概要記載①と③)と他地域要素が混在され作ったビール(概要記載②と④)では有意な相関がみられないといった否定的な結果になった。2019年度は、本研究目的である地域産(地域資源)と外部産における統計力学的手法による定量的な明示を完了したことに加え、2報の発表実績を残せたことは想定以上に順調であったが、予想に反する結果となったという両者の状況を踏まえ、上記の評価を判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究結果を率直に受け入れ考察を展開していくのと同時に、近赤外スペクトルデータの取得モードを変更するなど実験条件を見つめ直す。またサンプル数を増やすことで、研究の緻密性を高めていく。あわせて、解析手法における基礎研究も充実させていく。得られた研究成果は速やかに学会等で報告することに加え、当初の研究計画の追加点として、学会等の学術の場のみに留まらず、市民等の社会に対して本研究の発想や内容をわかりやすく発信するアウトリーチ活動を展開していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、所有していたPCで解析が可能となったため、新規解析PCの購入を見送ったが、次年度はデータ数を増やす等、より処理能力の高いPCが必要となるため、解析を円滑に進められるPCの購入を計画している。また、コロナウイルス の影響により予定していた出張が見送りになったことに加え、実験材料等が想定していた金額よりも少額になったため、本財源による支払いが生じなかった。 次年度の使用計画については、上記の繰り越された物品購入および出張費に使用するほか、申請時の計画から未使用となった財源に対しては、本研究内容および成果の社会発信活動費として使用する。特に、学会発表等の学術の場の発信に留まらず、イラストや低年齢向け図書の製作などを通してわかりやすく研究内容を発信できる活動等、学術と一般社会の双方向のサイエンスコミュニケーションを目指したアウトリーチ活動費およびそれに関連する経費に計上する。
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