地域振興のため、地産地消のように地域の資源を地域で使うといった活動が盛んに行われているが、その活動の意義の多くは、経済学的側面からの視点がほとんどであった。経済合理性の視点から地域資源を使う意義を考えると、生産者の立場からすると、高価な地域の素材を使うという選択がとりにくく、一方で消費者の立場からすると、いくら地域志向が高まりつつあっても、価格以上の価値がなければリピーターにはなり得ないというジレンマが生じてしまう可能性がある。そこで本研究は、これまであまりされてこなかった自然科学的な視点として物理学的なアプローチから木材という地域資源を通して地域資源を使う新たな意義を探索する。本研究では奈良県吉野町と鳥取県智頭町で杉樽醸造させた地ビール事業をケーススタディとして実施した。2019年度から2021年度にかけて、実験並びに再検討を実施し、また、本研究の要となる物理学的手法についても考察を深め、これまで国際学会1報(NIR2019)、国内学会1報(第70回日本木材学会大会)、学術論文2報(Journal of Wood Science、 Vibrational Spectroscopy)を発表した。また、本研究の内容や成果を学会や論文等の学術の場のみならず、科学者以外の方に発信するためのアウトリーチ活動も実施してきた。2022年度は、7月から12月にわたり鳥取県の高等学校に研究内容を紹介する「高校生と大学とをつなげる事業「つながるパネル展」」に本研究のパネルを作成し出展した。 本研究を通して、地域資源を題材に物理学的なアプローチでエネルギー状態としてその実態を表現する手法を提案できたことは、地域資源を活用する意義として、経済という社会活動的な合理性だけでなく、自然の仕組みを表す物理学的な視点での合理性もあるのではないかという、新たな意義を提案できる糸口となると期待している。
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