本研究は、少子高齢化が一段と進んでいる現代農山村の持続性に離農者が及ぼす影響を、ライフヒストリーの視点から明らかにすることを目的としている。 最終年度は、新型コロナウイルス感染症の流行により遅れていた現地調査を優先的に進めた。具体的には、離農者家族の生計活動や近隣農家との付き合いの変化をはじめとして、生活史に関する聞き取り調査及び関連資料の収集を実施した。 戦後、北海道では酪農経営の専門化・大規模化が進んできた。調査地である紋別市もそうした地域のひとつであり、農村部の持続性を考えて行く上で、酪農経営の継承可能性を模索することが基本的な視点となる。しかしながら、フィールドワークを通じて明らかになったのは、自ら望んで積極的に在村離農を選択した高齢者の生活像であった。在村離農は、家族酪農経営の継承に困難をもたらす一方で、当事者の生活の充実に繋がる場合もあったのである。農山村の多面的機能の維持や生きがいと関係する高齢者農業をはじめ、これまで注目されてきた、農業を続けることの肯定的側面に加えて、農業を継続しないという選択の意味や肯定的側面も視野に入れ、生活の場としての現代農山村のあり方を多面的に検討していく必要があるといえるだろう。 また、本研究では、乳業メーカーの従業員や農協職員などの立場から酪農業界に関わる離農者家族の生活史の一端が明らかになった。他出子と出身村の関係性のみならず、直接的に酪農業の持続に影響するような職業的背景と生計活動まで丁寧にみていくことの重要性が示唆された。
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