研究課題/領域番号 |
19K23271
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研究機関 | 埼玉県立大学 |
研究代表者 |
富田 文子 埼玉県立大学, 保健医療福祉学部, 助教 (80847939)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 障害者 / 一般就労 / 民間企業 / 雇用形態 / 賃金体系 |
研究実績の概要 |
本研究は、障害者の一般就労における雇用の質、特に民間企業における雇用形態と賃金体系について、障害者の有無による差異を明らかにし、障害者の安定した雇用と賃金のための課題を提示することを目的としている。 2019年度は、まず、日本の労働・雇用の歴史や欧米圏における障害者雇用や労働関係に関する先行研究の分析を行った。そこから、欧米では、生産性の低さのみによって賃金の低さが既定されているわけではなく、雇用主の障害者に対する差別の意識が影響している可能性があることをわかった。 次に、これらの分を踏まえて、特例子会社1社に対してインタビュー調査を実施した。主な調査項目は、①原則的な雇用形態と障害のない従業員との同異、②賃金体系の具体的な構造、③昇進や昇格の有無とその理由、④雇用形態や賃金体系を決定づける企業の意識(背景)とした。 結果は、障害の有無や障害種別及び業務内容、生産性に合わせて個別の給与設定を行っており、賃金の設定に関しては障害による格段の差異はないように考えられ、身体障害者の中には正規雇用への転換や役職の昇進している者もいた。正規雇用への転換を雇用主から打診された場合であっても、自身の状態を鑑みて障害労働者側から提案を拒む場合もあることがわかった。ただし、知的障害者(契約社員)に限っては正規雇用に転換した者がいないだけではなく、全員に対して賞与の支給がなかった。この点については、「生産性につながりにくい業務(清掃)のため、賞与の原資がない」という理由で不支給であった。ただし、彼らのサポートを担う支援員に関しては賞与が支給されるなど、障害者の職務内容の創出とそれに伴う賃金の設定に課題があることが推察された。 本調査内容については、Pacific Rim Conference on Disabilities 2020にて報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019度中は先行研究の分析及びインタビュー調査を1件実施した。 調査対象であった特例子会社は、障害労働者の採用や賃金等の待遇に関して、積極的に取り組んでいることがうかがえた。すでに週所定労働時間が20時間未満の障害労働者もいるなど、障害者雇用率への反映が困難な場合であっても、その能力に応じた業務設定によって、企業の労働力人材として登用していることがわかった。ただし、人事考課による賃金の設定については、地域別最低賃金の上昇幅が賃金設定を上回ることによって、生産性の反映が十分にできず、統一した賃金設定になりやすい状況であることもわかった。また、特定の業務を集約した基幹労働力化し、技術の向上を行っても、利益を生みだしにくい業務であったり、支援員の配置によって人件費が増したりすることで、障害者の生産性の概念に影響を与えている可能性があった。 今年度は、他社への調査を実施し、企業規模と障害の有無による雇用形態及び賃金体系に関する事例から、現状の課題をさらに明らかにしていく。 しかし、本年度の前半に複数のインタビュー調査を複数の地域で実施する予定であったが、新型コロナウイルスの影響を踏まえて、予定していた調査対象者へのアポイントメントを中断している状況である。そのため、今年度の調査が実施できるかは不透明であるため、研究は遅延している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度における今後の研究は、調査及び学会発表、論文投稿を予定している。調査内容の聞き取りは、企業の新型コロナウイルスによる社会情勢を考慮して、まずはインタビュー調査先へのアポイントメントを行う。ただし、学会発表に関しては、日本職業リハビリテーション学会は中止になっているため、日本リハビリテーション連携科学学会や2021年度に変更を行うこととする。論文執筆についても、複数のケースをもとに、研究を進めたいと考えているため、2021年度に延期する可能性がある。 本研究は、雇用形態や賃金体系といった、企業の人事等に関わる内容を含むため、調査方法の変更が難しい点があるものの、それらについて改めて検討していく。また、収束が見えた場合には、近隣の障害者を雇用する企業に対して、「新型コロナウイルスによる障害者の雇用の現状(雇用の継続や解雇、次年度の採用計画など)」について、アンケート調査を行うことも同時に検討するが、予定していた調査が実施できるかは不透明である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の調査は1件のみであり、調査から学会発表までの期間が非常に短かったため、複数調査を行うには至らなかった。また、データの逐語録起こしができていないことにより、前年度費用が今年度の使用額として繰り越しになっている。加えて、欧米圏における労働関係に関する関連書籍や論文の収集も十分には行えなかったことも、満額使用にならなかった経緯である。 今年度は、関東近隣以外(近畿圏等)の企業へ調査を行う予定のため、複数の調査旅費費用の計上とともに、調査先データの逐語録化に費用として使用する。加えて、調査データ数が揃った際には、障害者の就労支援に関する社会福祉分野と労働分野等の専門家を招いて、調査内容の分析に関する研究会を実施するため、その経費とする。
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