研究課題/領域番号 |
19K23274
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研究機関 | 新潟国際情報大学 |
研究代表者 |
堀川 祐里 新潟国際情報大学, 国際学部, 講師 (90847740)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 母子保護法 / 救護法 / 生活保護 / ひとり親 / 女性労働 / 貧困 / 戦時期 / 捕捉率 |
研究実績の概要 |
本研究は、生活保護制度の基礎となった救護法の特別法である母子保護法について、その適用水準(生活保護でいうところの捕捉率、つまり生活保護を利用する資格がある人のうち、実際に利用している人の割合)を定量的に明らかにするとともに、運用方針が、実際の母子保護法の適用水準にいかなる影響を及ぼしたのかを定性的に明らかにするものである。 本研究の意義は、歴史的アプローチから現代の生活保護制度の母子家庭に関する課題を照射することである。戦時期の貧困対策についての歴史的・実証的研究から、現代日本にも通じる女性の「労働」と妊娠、出産、育児との両立に関する課題を照射したい。歴史的アプローチにより、現代の生活保護制度において「労働」による自立が強調され、母子家庭のひとり親が子育てに十分な時間をかけられないという課題を照射することが出来る。 令和元年度は、1938年当時の母子保護法の捕捉率を明らかにすべく、まず、1938年当時に保護を受けるべきであると試算された貧困母子の該当者数の推計試算について、集計分析を行った。資料としては、主に厚生省(1938)『厚生行政要覧』を用いた。厚生省(1938)の「母子保護法該当者調」により、母子保護法施行前の母子保護法該当者数の推計試算について、集計分析を行った。当該資料は統計資料としてデータ化が行われていない資料であり、資料からの判読とデータ入力を行った。 「母子保護法該当者調」の結果を見ていくと、まず市部の該当者は約5万人、郡部の該当者は約8万2千人となっており、該当者は全国において合計約13万2千人となっていた。最も該当者が多いとされたのは東京で、母子併せて約1万4千人であった。また最も少ないとされたのは鳥取の約200人であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は、厚生省(1938)の「母子保護法該当者調」により、母子保護法施行前の母子保護法該当者数の推計試算について、集計分析を行うことが出来た。また、当該研究の遂行過程において、この調査に関する調査方法等についても明らかにする必要性が判明した。そのため、専門的知見を得るべく、社会保障のなかでも救貧対策を専門とする研究者による研究会で報告を行った。その中で、専門家からコメントを得て、新たな資料収集先の候補を得ることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度では、令和元年度に得られた研究成果である、母子保護法施行前の母子保護法該当者数と、実際に保護を受けられた貧困母子数を都道府県ごとに定量的に比較することによって、母子保護法の適用水準(捕捉率)を明らかにする。その際には、厚生省厚生大臣官房文書課(1940)『厚生行政要覧』を用いる。そのうえで、母子保護法の運用方針が保護の適用水準にいかなる影響を及ぼしたかについて定性的に分析を行う。 具体的には、厚生省厚生大臣官房文書課(1940)により、母子保護法施行直後の1938年度の実際の母子保護状況について集計分析を行い、令和元年度の研究成果と比較することによって定量的な分析を行う。なお、現在入手している資料では、1938年の母子保護状況実人員が4月~9月分までしか判明していない。そのため、資料の追加収集を行う必要がある。調査先としては、国立社会保障・人口問題研究所「舘文庫」を利用する計画である。その他、日本福祉大学、日本社会事業大学、国立女性教育会館等での資料調査を予定している。追加で新たに資料を得られた場合には、併せて当該資料の判読とデータ入力を行う。 上記の定量的な比較検討のうえで、さらに、申請者がこれまでに明らかにした母子保護法の運用方針が、適用水準を低め、捕捉率を低くする作用をもっていた可能性について、定性的に考察を行いたい。研究成果は、論文としてとりまとめ、『新潟国際情報大学 国際学部 紀要』にて公表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
採択結果が年度途中に公表されたため、その後研究費の使用を開始したが、次年度使用額が生じる状況となった。また、本年度は文献研究を順調に進められたものの、予定していた国内出張が叶わなかったため、旅費について未使用部分が残された。次年度使用額は専門図書の購入および国内・外国旅費として使用する予定である。
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