本研究は、ASD児の社会性の発達を促すための取組について、「ムーブメント教育・療法」の理論に基づき、特別支援学校小学部の体育での授業実践を行い、その結果をまとめたものである。新型コロナウイルス感染拡大予防対策の制約から授業数が制限されたものの、6回の授業実践を行い、MEPA-Rのプロフィール表、児童の行動観察記録、教員のアンケートを用いて研究成果をまとめることができた。 MEPA-Rプロフィール表では、9人中7人の児童にプラスの変化が見られた。また児童の観察記録からは、ASD児が、友達の動きをみて模倣するようになったり、自分から友達に近づいていき共に活動したりと、コミュニケーションスキルの向上の様子が記録されており、ASD児の社会性の発達に関して複数の成果がみられた。ASD児の特徴である「相互の対人的-情緒的関係の欠落」「非言語的コミュニケーション行動の欠陥」などを補う能力の開花がみられたと言っても過言ではない。ASDが苦手とする「他者が何を考え、どんな期待や信念をもっているのかなどの理解に応じて行動し、思考する能力」への発達も期待できる。本実践で社会性の発達がみられたことは注目されるところである。 さらに教員によるアンケートでは、各児童の目標共有後の授業観察から児童の行動変化を的確に受けとめる姿や、目標達成のために教材や活動内容の改善を希望する兆しがみられた。「ムーブメント教育・療法」の理論に沿った指導が、教員にとっても充実感を導くものであったと考えられる。 今回は体育での取組であったが、動きを学び、動きから学ぶ視点を活かした「ムーブメント教育・療法」の指導は、自立活動や生活単元学習、国語、算数等の教科指導でも実践は可能であり、「ムーブメント教育・療法」の特性である楽しく学ぶ授業は、児童自らの自主性を育みその力は授業以外の場面でも充分な成果を期待することができる。
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