研究課題/領域番号 |
19K23293
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研究機関 | 東京国際大学 |
研究代表者 |
久保 亜希 東京国際大学, 言語教育機構, 講師 (70846873)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 合意形成談話 / 接触場面 / 対立 / 介入 / 日本語学習者 |
研究実績の概要 |
2019年度は、ベトナム人日本語学習者、およびその比較対象となる他言語の日本語学習者の合意形成談話の特徴について分析を行うため、資料収集、および予備調査を行った。収集した資料の分析では、ベトナム人は日本人と比較すると曖昧な述べ方をしない傾向があることがわかったため、合意形成談話においても日本人よりも明確に不同意を示したり、対立を表明したりすることが予測される。このような予測が適当かどうか、また、具体的にどのように不同意を表明するのかを分析するための前段階として、予備調査を行った。予備調査では、日本語学習者がペアで「イベントの計画書を立てる」というタスクを課し、合意形成談話が問題なく収集できるのかを確認した。 また、日本語学習者と日本語母語話者の接触場面でのやりとりでどのように日本語母語話者が会話を行おうとしているのか、その手がかりを探るため、留学生との自由会話を行った日本語母語話者に、学習者との会話で意識していること、会話を何度か行う中で自分の言葉遣いや態度が変容したかなどを簡単に調査した。その結果、半数程度の日本語母語話者が自らの話し方を変えようとしていることがわかり、接触場面での日本語母語話者の特徴を観察する上で考慮すべき点を探ることができた。 さらに、日本語学習者が3名以上のグループでの合意形成談話において、議論や対話が停滞した場合の仲介行動に着目をして分析を行った。その結果、議論や対話が停滞する原因が、意見の対立等によってなのか、言語的な問題によってなのかで、介入の特徴が異なることがわかった。これらの介入の特徴によって、合意形成談話での意見調整に影響を及ぼす可能性があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定では、ベトナム人日本語学習者の2者間における合意形成談話を10組から15組程度収集する予定であったが、研究代表者の所属する大学での研究倫理審査の承認に時間がかかったため、学期中(2019年12月まで)に調査を行うことができなかった。そのため、他大学にて急遽調査を行うことにしたが、学生数や学生のスケジュールの関係上、予備調査をするにとどまり、ベトナム人日本語学習者のデータ収集を十分に行うことができなかった。しかしながら、モンゴル語や中国語など、他の言語を母語とする日本語学習者からのデータを収集することができ、今後の調査・研究を進めるにあたって有益なデータを取得することができた。今後はこのデータの文字起こし、および分析を進め、本調査への準備を行うこととする。 また、その一方で、日本語学習者との会話を経験した日本語母語話者を対象に、日本語学習者との会話に対する意識の調査をすることができた。今後、日本人と学習者の接触場面において、不同意表明や対立表明に影響を及ぼすと考えられる、意識に注目することができた。また、日本語学習者のグループワークにおける合意形成談話など、派生的なデータを収集、分析することができたため、全体としては大きな遅れは生じていないと言える。
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今後の研究の推進方策 |
予定では2020年度はベトナム人日本語学習者のデータ収集、分析、学会での発表を行う予定であったが、COVIT-19の影響によって、2020年度の上半期はデータ収集が不可能となった。 2020年度の下半期はどの程度の影響があるか現時点では予測が難しいが、対面でのデータ収集が可能となれば、予備調査の分析結果を踏まえ、ベトナム人日本語学習者の2者間における合意形成談話を10組から15組収集することとする。収集データは文字起こしをしたのち、学習者の提案や不同意を抽出し、どのように対立が示されているのか、対立を調整して合意に向かうのかを分析する。対面でのデータ収集が困難な状況であれば、予備調査のデータなど、すでに収集したデータを分析して、Web上で行える質問紙調査による調査を行うこととする。質問紙調査では、①いくつかのパターンの不同意表明からどの発話がより良いかを選ばせる質問、②相手がどの程度強く反対意見を述べていると思うかという質問などを組み込む。このような調査は、日本語学習者の発話の実態を調査するには不向きであるが、学生が「何を発話すべきか」という意識を調査することができる。質問紙調査において、学習者の意識を探ることができれば、その後の発話データの分析に厚みが増すと考える また、2020年11月に行われる国際学会での発表に申し込む予定であったが、それもCOVIT-19の影響で中止となったため、学会発表ではなく学会誌への投稿を行うこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度には、データ収集を行う予定であったが、研究倫理審査に予定外に時間がかかり、学期内にデータを収集することができなかったため、謝礼およびデータ分析に要する人件費が予定していた金額ほどかからなかった。また、2019年度3月には、アメリカ(ボストン)の学会(American Association of Teachers of Japanese)において口頭発表を行う予定であったが、コロナ禍による海外渡航の中止、および学会の中止により、発表を行うことができなかった。したがって、旅費として計上した助成金が使用できなかったためである。 次年度は、2019年度に行えなかった調査を行う予定であるため、その調査協力の謝礼、データの文字起こしの謝礼として助成金を使用する。また、質問紙調査や協力者の日本語能力を測定する試験をオンラインで行うため、その調査用の機材としてタブレットを購入する予定である。
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