研究課題
本研究の目的は,肢体不自由者の移動視標に対する位置認知、および移動視標を遮蔽した場合の位置予測の特徴を明らかにすること、およびそれぞれの局面においてどのような眼球運動の特徴を有するか解析することである。2023年度は、移動視標に対する位置認知、および移動視標を遮蔽した場合の位置予測中のパーシュートの眼球運動計測実験を行った。対象は肢体不自由者(成人男性)および障害のない者(成人男性)である。実験は、条件①モニター上を一定速度で左から右方向に移動する視標の追視、及び、条件②移動する視標を画面中央で消失させ,被検者は視標が同じ速度で移動していることを予測しながら追視する、2つの条件で行った。条件①の移動視標に対する位置認知では、障害のない者の視線は視標の前方を移動するが、肢体不自由者の視線は視標の動きとほぼ同期する特徴がみられた。条件②の移動視標を遮蔽した位置予測では、障害のない者の視線は視標消失後にサッカードと停留を規則的に繰り返しながら視標の進行方向へ移動した。これに対して肢体不自由者の視線は,視標消失後の停留回数が障害のない者よりも少なく視標進行方向へのサッカードの距離が大きかった。研究期間全体の結果より、肢体不自由者は移動する視標の位置認知においては、概ね視標を正確に認知することができるものの、障害のない者に比して追視の眼球運動速度が遅くなる特徴があること、また、移動する視標が消失した場合の視標の位置予測が難しいことが示唆された。球技などの運動中にはボールや仲間の動きなどを予測した運動が求められるが、それらの視覚情報は一時的に得られない状況が生じるため、消失前の移動速度や移動方向を参考にした位置予測が重要となる。肢体不自由者が球技を苦手とするケースでは、運動障害だけでなく移動する対象が見えない状況でその位置を予測することが難しいことも要因であることが推察された。
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