研究課題/領域番号 |
19K23297
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
山口 香苗 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 助手 (80843896)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | コミュニティ教育 / 生涯学習 / 地域づくり / 台湾 |
研究実績の概要 |
本研究は、台湾の生涯学習施設である社区大学、住民自治組織の社区発展協会に着目し、住民の学びを通じた地域づくりの実態を実証的に明らかにすることを目的とするものである。 台湾では1987年の戒厳令解除以降、市民社会の形成をスローガンに、住民参加による社会形成が課題化している。生涯学習分野においては、地域課題解決学習を通じて住民の地域社会に対する意識を育て、地域づくり実践へと展開していくことが目指されるようになった。その場として、1990年代に設置された社区大学がある。社区大学では、文化教養学習を中心にした学習が展開され、住民の自己実現や人間関係の構築が行われてきた。そして、そこでの学びをもとにして地域づくりへの関与をより一層強めるため、近年、住民の自治組織である社区発展協会と連携し、地域づくりのための活動や学習を行っている。 社区大学と社区発展協会は何をきっかけに協力関係を築くようになったのか、どのような関係を築いているのか、社区大学での学びと社区発展協会での活動はどのようにつながっているのか、もしくはいないのか。これらを明らかにすることで、台湾における住民の学習を通じた地域づくりの特徴と課題を考察することを目指す。この事例を通じて、台湾が目指す市民社会のあり方を考察することが、最終的な目的である。 本年度は、台北市の2ヶ所の社区大学と社区発展協会の実態調査を行った。結果、明らかになったことは、以下の2点である。①社区発展協会が住民に福祉サービスを提供する地域の福祉拠点としての役割を担うようになっている。②社区大学は、これまでは講座を住民に提供することに重きを置いていたが、住民から地域課題の学習要望が社区大学にもちこまれ、社区大学で講座化する動きがでている。 今後は、これら2つの組織の関連を調査し、住民による地域づくりがどのようにして可能になっているのか明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、台北市で2カ所の社区大学と社区発展協会の調査を行い、特に、社区発展協会設置のきっかけとその基本的な性質を把握することができた。日本では住民自治組織や地域コミュニティといえば、町内会などの地縁団体が連想されるが、台湾の社区発展協会は住民有志による民間組織であり、NPOに類似するものと捉えた方が良いことが明らかとなった。つまり、地域づくりのために住民が独自に組織できるものであり、そのため、調査をした社区発展協会は、環境保護活動や産業の活性化、子どもの健全育成に関わる活動をしていた。近年は、高齢化が急速に進んでいることから、行政からの委託を受け、福祉サービスを住民に提供する拠点になっている。これらを踏まえて、まずは社区発展協会が地域づくりにどのような役割を果たしているのかを把握した上で、社区大学との協力体制のあり方を明確にする必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
現在の社区発展協会は地域の福祉拠点とされていることが多く、台北市では行政主導によって、高齢者への食事提供や、健康維持のための体操やレクリエーションの提供の場となっている。そのため、住民が自ら計画し、動いて行くという実態がどの程度存在しているのかが不明であるものの、この福祉的取り組みも、地域づくりには欠かせない要素だといえる。そのため、まずは社区発展協会をさらに数カ所調査し、社区発展協会とは地域にとってどのようなものであるのかを把握することが必要だといえる。その特徴を捉えた上で、社区大学との連携のあり方を検討することを考えている。 また、社区大学は、これまでは講座を住民に提供することに重きを置いていたが、住民から福祉を題材とした地域課題の学習要望が社区大学にもちこまれ、社区大学で講座化する動きがでている。このような動きが地域にとってどのような意味を持つのか、また上述の社区発展協会の福祉的取り組みとどう関係しているのか、いないのか、考察していくことが必要である。 新型コロナウイルスの感染拡大により、今後の現地調査の予定は立てられない状況である。現地調査がかなわない場合は、メールにより質問用紙を用いた記述回答方式による調査、あるいは可能であればオンラインでのインタビューで対応する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査が予定日数より少なくなったこと、およびインタビューのテープ起こしを申請者自身で行ったために、残額が生じた。来年度は、予定している学会発表、および論文執筆に必要な書籍及び備品の購入、調査資料整理用の機器を購入する予定である。
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