本研究は、台湾の生涯学習施設である社区大学、住民自治組織である社区発展協会に着目し、住民の学びを通じた地域づくりの実態を明らかにし、台湾社会が目指す市民社会のあり方を考察することを目指すものである。研究開始から半年後に新型コロナウイルス感染症の拡大が始まり、数年にわたり海外渡航ができなくなったことから、実地調査による研究を中止し、社区発展協会とは一体何なのかを文献を中心に明らかにする研究へと切り替えることとなった。 今年度は、社区発展協会が福祉拠点としての役割を近年担うようになっていることから、台湾の生涯学習政策の中に大きく位置づいている高齢者教育の実態を明らかにする中で、社区発展協会の役割についても明らかにした。政府が進める高齢者教育は、楽齢学習センターや楽齢大学といった高齢者の学びの場を設置していく手法がとられており、社区発展協会はそれらのさらに小規模な拠点として地域に開放されている例が見られた。 本研究の全体として、社区発展協会は住民自治組織として民主化後にその設置が多くみられるようになったが、住民有志で活動を行うところもあれば、行政の末端機関である里の長が社区発展協会の運営を担う例もあり、その性質は一概にとらえられないことが明らかとなった。また、活動内容も多岐に渡り、住民による環境保護活動や文化活動を行うものから、行政施策によって社区発展協会を地域の福祉拠点として活用する例も見られ、社区総体協会は、住民の自治組織というよりは、地域課題解決のための拠点、そのための住民の拠り所という意味合いが強まっていることが明らかとなった。 これらの研究を踏まえ、今後実地調査によって、行政と社区発展協会およびそこに関わる住民の関係性を明確化していくことが課題として残された。
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