研究実績の概要 |
近年、STEAMM (Science, Technology, Engineering, Arts, Math, and Medicine)に関する議論において芸術が他の学力の育成に貢献することが指摘されるなど芸術の役割が見直されている。本研究では芸術活動の教育的な効果に注目し、義務教育期に近年導入されているダンスなどのパフォーミングアーツの経験が非認知能力を涵養するという教育効果を持つことを定量的に明らかにする。 これまで申請者は、小学生時の学校外における芸術活動が学歴や個人所得に正の影響を及ぼすことを明らかにしてきた。教育投資である学習塾への通塾や健康資本につながるスポーツ活動と比べて、教育効果が期待されにくいとされる芸術活動が直接的に個人所得を引き上げるとは考えにくい。そこで、芸術活動の影響は非認知能力を介したものであると仮説を立てた。非認知能力は学力テストで測れるような認知能力とともに、個人の労働生産性をあげる重要な能力であることが指摘されている。実際に、小中学生時のパフォーミングアーツの経験によって認知能力のみならず、これまでの学力指標では捉えられない非認知能力が高められると報告している実証研究もある。 ただし、日本における芸術教育に関するデータの蓄積は少ない。そこで、芸術が非認知能力を介して個人所得に影響を及ぼすという仮説検証のために本年度は独自の調査によってデータを構築した。質問票には非認知能力の中でも主にグリット(やり抜く力)とマインドセットを測る指標を含めた。調査では調査会社を通して調査会社が保有するモニターに回答を依頼した。幼少期の芸術活動についての回顧データとともに、現在の非認知能力や所得に関するデータを得ることで長期的な影響を捉えた。
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