本研究は、アイヌ民族の人々が先住民族として新しい自己認識の形成を促す教育を「先住民族教育」と位置づけ、「PA L学習法」: ①脱フレーム化、②意識化、③再フレーム化、という3つの研究プロセスを通して「先住民族教育」に関する新しい学習プログラムをアイヌの人々と共同で探求し、開発を目指すものである。 本年度は、前年度までのアメリカ・ハワイ州における先住民族に関する現地調査の結果を元に、北海道内の3つの地域のアイヌの研究協力者とオンラインなどで研究ミーティングを継続し、「教育」と「観光」に関する新しい方向性を見出した。また「観光」については、オミクロンの拡散により北海道とアイヌ文化に関する観光に大きな影響が見られたが、アイヌ民族と「観光」の現状と今後の課題を見出す機会につながった。さらに、「先住民族教育」については、教育制度による既存のフレームを持つ教育ではなく、現状からの①「脱フレーム化」を考慮し、地域のアイヌの人々のニーズを尊重した「教育」や「観光」を考えるためにアイヌの人々の「語り」に焦点をあてた。既存の学習からの知識とアイヌの人々が持つ本来の知識の両方の観点から③「再フレーム化」を「語り直し」という方法で検討することにした。その方法として、国内における「語り」を「ライフストーリー研究」という観点から、また先住民族の「語り」という観点からハワイ大学で行われている先住民族に焦点を当てた「バイオグラフィ研究」という観点から、先住民族の「語り」についての検討を行った。この研究結果をオンライン・シンポジウムを開催することで発表し、先住民族による「語り直し」という視点を持つ新しい教育につながる知見が得られた。
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